芯樹〜シンジュ〜
□Come on,ghost
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――蛭魔 妖一が、意識不明の重体。
突然、飛び込んで来た知らせに、まもりはその場で卒倒しそうになった。
咲蘭やアコに支えてもらいながら、知らせに来た教師の話を聞く。
交通事故。
相手は大型車の運転手で、居眠り運転をしていたようだ。僅(わず)かだが、アルコール反応も検出されたと、担任は話していた。
「…それより、ひ、ヒル魔くんは…」
声が、震えている。
あの背中を思い出す。
「――まだ、意識が戻らないそうだ…医者の話だと、今夜が峠だと――…」
「嘘」
あの、声を思い出す。
「……よ…」
あの、陽に光るピアスを。
「嘘よ…だって、」
あの、金の髪。
嫌だ、どうして。
「昨日まで、あんなにっ…」
声が続かない。
涙が溢れ、瞼の裏でヒル魔が、はにかむように笑った。
どうして…
走馬灯のように思い出すのだろう。
これではまるで、彼が――
頭が真っ白になる。
とても、授業が受けられる状態ではない。
親友二人は、教師を説得し、まもりを早退させる事にした。
「まもり、一緒にいようか?」
そう尋ねながら、二人はまもりの応えを知っていた。
「ううん、大丈夫」
予想していた通りの返事に、咲蘭とアコは溜め息を吐(つ)いた。
気丈な彼女が、自分たちを頼るのはまだ先で有ろうと、背をさすってやりながら見送った。
まもりの足取りは重い。
まだ信じられない。
悪戯かな?
だとしたら、これは悪質に過ぎる。
だがそうとでも思わなければ、この足は動かない。
人間、あまりにも突然に衝撃的な事を告げられると、却(かえ)って冷静になるものねと、ぼんやりと考えた。
それはきっと、自分の思考回路が現実に追いついていないせいに違いないが、それを認めてしまったら負けだと思った。
多分、この場で崩れ泣いてしまった方が楽なのだろうけれど。
『素直じゃねェよな』
頭の中で、彼の声で、そう呟いた。
あなたにだけは、言われたくないわ。
いつも、言葉の裏に多くの含みを持っていた。
それらを感じ取り、呑んだ上で応えを返す。
すると彼は、ニタリと笑う。
『そうだ、よく解ったな』
そう言われているようで、嬉しかった。
そんな事を毎日のように続けてしまえば、きっと誰もが彼に夢中になる。
――現に、私はもう多分、抜け出せない程の深みに居る。