芯樹〜シンジュ〜

□come back again
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 …あぁ、なんだ、そこにいたの。

「ヒル魔くん」

 金色の髪をしたその後ろ姿。
間違いなく彼だ。

「ヒル魔くんてば」

 聞こえないハズがないのに、返事をしない。
それどころか、歩みを止める気配すらない。

「心配したんだから」

 まもりは、彼を追おうと走り出すが、ちっとも追いつかない。
むしろ、ぐんぐん離されていく。
彼は、歩いていて、自分は全速力で走っているのに。

「ちょ…ちょっと、待って!」

 ヒル魔の姿が、どんどん小さくなる。
まもりは、叫び続けた。

「待って!どこへ行くの!?」
「ヒル魔くん、ヒル魔くん――!!」

 哀しみと、焦りが、まもりを支配する。
 思わず、手を差し伸べた――……



 差し伸ばした手に、手が触れて、安心したまもりは、目を開けた。
 見慣れた壁紙…見慣れた風景。
 ただひとつ、見慣れないのは、心配そうにベッドの横に座っている姿。
「気がついたか?」
「…武蔵(たけくら)くん…」
 まもりは、思い出そうとした。
何故、自分は、自分の部屋で寝ているのか。
「お前、倒れたんだよ」
 そんなまもりの心中を察してか、ムサシが明確に応えた。
「…みんなは…」
 まもりの問いにムサシは、あぁ、と言うと、部屋の隅を顎で示して見せた。
 ベッドの足元で、腕を枕に、突っ伏して眠る鈴音。
 その横に、体育座りで眠るセナ。
 …そして…?
「十文字くん?」
 壁にもたれながらつっ立って腕組みをしている十文字が目に入ると、まもりは真っ赤になってしまった。
 その様子が気に入らなかったのか、舌打ちをしていた。
「また熱が上がったかな…うなされていたようだが、大丈夫か?」
 ムサシは、大きな掌を、まもりの額にあてがった。
 そこで、初めて、ムサシと手を繋いでいる事に気づいた。
「いつまで握ってんだ」
 十文字が、イライラした口調で言った。
 そっと手を離し、まもりの手を布団の中にしまうと、ムサシはゆっくりと立ち上がった。
「悪かったよ、だが、お前のモノでもないだろう?」
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