芯樹〜シンジュ〜

□『光』
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 部活以外で、ヒル魔さんの姿を見かけると、胸が痛くなる。
 ヒル魔さんが登校して来たり、教科書を開いていたり、お昼ご飯を食べていたり。
 ――人間なんだから、当たり前なんだけど…。
 ヒル魔さんが普通の生活をしている。
 それだけで、幸せな気持ちになる。
 …僕は、おかしいのだろうか。


「…ナ、セーナ!」
 モン太が、僕の顔の前で手をひらひらと振っていた。
 そこで初めて、ぼーっとしていた事に気づく。
「あ、ゴメンゴメン!」
「お前…最近、ぼーっとしてるよな。なんか、あったのか?」
 心配そうにモン太は僕を覗き込む。
 僕の額に手を当て、「熱はないしなぁ」とも言った。
 苦笑いを返しながら、「大丈夫だよ」と応える。
 …本当は、ちっとも大丈夫じゃない。
 部活に行くのが苦痛でたまらない…。


 次の授業中、ぼうっと外を眺めていると、グランドでサッカーをしているクラスがあった。
 その中に、金髪の細い姿を見つけた。
 ムサシさんらしい人と話しながら、それなりに授業に参加しているようだ。
 彼は、ムサシさんの前ではあまり無茶はしない。
 特に、授業中は。
 「…たっ」
 ――急に、コツンと頭に何かが当たって、我に返った。
 消ゴム…?
「なに見てんだよ」
 前の席の三兄弟が、振り向きながらボソボソと話しかけた。
「え…あ…いや、別に…」
 すると黒木くんが、
「お前、当てられてるぞ」
 と言った。
 教壇を見ると、明らかにご立腹な先生の姿。
「あっ、すっ…スイマセン!!!」
 急いで立ち上がるが、何を答えたら良いか解らない。
「142ページ、四行目だ」
 小声で十文字くんが教えてくれたので、その場はなんとか凌(しの)ぐ事ができた。
 ああ、本当に僕はどうかしている。


 部活に行っても、ヒル魔さんを直視する事ができなかった。
 明らかに様子のおかしい僕を、まもり姉ちゃんが心配していた。
「何かあったの?なんでも相談にのるからね、セナ」
 …まもり姉ちゃんには言ってもいいだろうか…。
 僕を、変な目で見ないでいてくれるだろうか…。
 口を開きかけたその時、声がした。
「おい糞マネ」
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