芯樹〜シンジュ〜

□夏、音。
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 次の日の昼休みのこと。

「ねぇまも、なんか一年のコが呼んでるよ」
 咲欄に言われて、まもりは教室の入り口を見る。
「え…十文字くん」
 珍しい来客だと思いながら、急いで十文字に駆け寄る。
「どうしたの?何か、部活の事?それとも、ヒル魔くんに何かされた?」
 まもりの口からヒル魔の名前が出て、十文字は少しイラッとする。
「…違いますよ、姉崎先輩。話が…」
「話?」
 そこでまもりは、十文字が一人なのだと初めて気づく。
 いつも三人で一緒にいるのに。
「…ココじゃなんなんで…」
「?」
 いぶかしそうにするまもりを連れて、十文字は屋上へ向かう。


 屋上は、教室よりずっと暑く、むっとする熱気があった。
「暑いね」
 まもりが十文字に話しかけるが、十文字は「そっスね」と、気のない返事をするだけだった。
 まもりは、心底心配したらしい。
「本当にどうしたの?いつもの十文字くんらしくない…」
 十文字は、まもりに近づき、ぐっと身を寄せる。
「…いつもの俺?」
 十文字の目が、何かを訴えかけている。
 息が、憂いをおびている。
 まもりは、ぎくりとして後ずさる。
「姉崎先輩は、いつものどんな俺を知ってるんスか…」
 後ずさるが、背中には出入り口の扉。
 逃げようがない。
 十文字は、両手を扉に付け、なおもまもりに迫る。
「姉崎先輩…」
 息が、荒い…
 予令が響く。
 蝉の音が、
 木々のさざめきが、
 ココにはお前たちだけだと告げる。
「好きだ、好き…」
 十文字の呟きは、呪文のようにまもりの胸を打つ。
 もう、
 このまま。
 ほだされてしまおう。

 まもりがそっと目を閉じた。

「いい眺めだな」

 嘲(あざ)け笑うような声が、天から落ちた。

 銃をかついだヒル魔が、二人の頭上にいた。
 正確には、出入り口の建物の天辺(てっぺん)。
「ひっヒル魔く――」
「テメ…!!」
 真っ赤な顔の二人が、それぞれのリアクションをとる。
 それを見下ろしながら、ヒル魔は「ドウゾ、お構い無く」とさらっと言う。
 だが二人は、無言のままさっと身を離す。
「続けろよ」
 半ばヤケ気味に聞こえるような声で、ヒル魔は言い放つ。
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