芯樹〜シンジュ〜

□夏、音。
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「…なっ、なんなんだよテメーはよ!」
 イライラした十文字が、ヒル魔に怒鳴りつけた。
 ヒル魔は、冷たく見下ろすだけだ。
 まもりは、ずっと顔を隠すようにうつむいている。
「姉崎ィ」
 まもりは、ヒル魔の声で呼ばれた事に気づくのに、しばらくかかった。
 そしてゆっくりとヒル魔を見上げる。
 ヒル魔は、優しく微笑んで銃を天に放ちながら、

「愛してんゼ」

 と、言った。

 薬莢(やっきょう)が、カランカランと落ちる音が響き、そしてまた夏の音が還ってきた。
 ヒル魔は、かがんで「聞こえたか」と二人に問うた。
 十文字は呆気(あっけ)にとられて、目を丸くしていたが、まもりの様子を見て、
 まもりは、耳まで赤い顔で涙ぐんでいた。
 敗けだと、思った。

 ヒル魔は、満足そうに微笑んで「風紀委員がサボりましたネ〜」と陽気に言った。
「…もぅ…」
 まもりは、前を向いていられずに、ずっとうつむいて泣いた。

 十文字は、静かに、その場を後にした。
 ヒル魔は、地面に軽々と着地して、うつむくまもりの両手を掴んだ。
「糞マネ」
 惚れていた、
「…そ、そんな名前じゃありませんっ」
 ヤりたくないくらい。
「姉崎サン」
 真っ直ぐに俺を貫いて。
「付き合えよ」
 まもりの目には、ヒル魔だけが映る。
 いつも、俺だけであるように。

「もう…いつも強引なんだから…」

 蝉の音が、
 木々のさざめきが。
「好きよ、好き」

 セカイには二人だけだと告げる。

「嫌いになりそうなくらい」

 まるで、残像のように。







おしまい。
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