芯樹〜シンジュ〜

□半熟モノ。
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 その知らせは、アメフト部を始め、全校を貫いた。


 セナは、冗談だろうと思った。
 担任が悲痛の面持ちで告げた。
 姉崎まもりが、交通事故で意識不明の重体だ――と…。


「ヒル魔さん!」
 授業が始まる寸前に、セナがヒル魔のいる教室に駆け込んできた。
 教室に入って、セナはぎょっとした。
 全員が暗い顔でセナを見ている。女子生徒は、固まってグスグスと泣いていた。…まるで、お葬式のようだ。
 ――お葬式??
 やめろ、縁起でもない!
 セナは、ヒル魔の姿を見つけて思わずホッとした。
 彼は、いつも通りだ。
 …そうか、やっぱりデマだったんだな!
 ほら、見てごらんよ、悪い冗談にすぎない。
 予令が鳴った。
 ヒル魔が、無言で立ち上がった。
「ヒ…ヒル魔さ」
 セナはヒル魔に襟を捕まれて、そのままズルズルと引きずられて行く。
「わ、あ、あのっ…え?じゅ、授業は…」
 右手にセナ、左手に銃を担ぎ、ヒル魔は黙ったままセナを引きずって行く。
「おい、何してる」
 階段の前で、教師が彼らを見つけた。
 教師は、相手がヒル魔だと解ると少し物怖じしたようだったが、それでも怯(ひる)む事なく立ち向かう。
「予令が鳴ったのが聞こえなかったのか?」
 ヒル魔は、教師を静かに睨んだ。
 教師は、顔色を悪くしながらもなおもヒル魔に負けまいと声を張り上げた。
「そんな態度を取っていいと思っているのか。いいか、お前はいち生徒なんだ、ただのな。それ以上の何者でもない!」
 しばしの間を置いて、ヒル魔はセナを放り投げた。
「…てっ!」
 セナは、後頭部を見事に強打した。
 強打したところをさすりながら見上げて目に映ったものは、ヒル魔に真っ直ぐ銃を突きつけられた教師の姿。
 だが教師は、まだ折れようとしない。
「こんな脅しに乗ると思っているのか?」
「…脅し?」
 ヒル魔は、照準を素早く変えて銃を放つ。
 銃声と薬筴(やっきょう)の落ちる音が、廊下に響いた。
 そして、何かがカタンと落ちた音。
 それは、教師の腕時計。
 セナは見た。
 腕時計に縦一直線に、銃痕(じゅうこん)があるのを…。
 腕時計はしゅうしゅうと煙を上げたまま、転がっていた。
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