芯樹〜シンジュ〜
□ありふれた日常に、あなたという名の福音
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美術の時間。
ああ、どうして高校にも美術ってあるんだろう…。
私って、左脳人間なんだけどな。
小さい頃から、
「まもりは本を読むのが早いわね」とか、「もうこんな漢字が読めるのね」とか、「こんな難しい問題、よく解けるね」とか、「すごい、記憶力いいのね」とか言われてきた。
そうよ、実際問題、絵なんて社会で必要ないんだから。
…そういう職業に就かなきゃ、だけど。
でも、保育士って、やっぱり絵が描けた方がいいのかな…。
ともかく、今日の美術は写生だ。
校内にあるものを、好きなように描きなさいとの事。
みんな、それぞれ仲のいい友達と連れだって写生するものを見つけに行った。
美術の時間、私は孤独。
いつも優しい先生と一緒にいる。
けれど、今日はそうはいかない。
「ほら、姉崎さんも行きなさい」
背中を押されてしまった。
確かに、狭い教室には石膏で作った顔だけの人たちしかいない。
…やめよう、この人たちは難しそう。
仕方なく、とぼとぼと教室を後にした。
スケッチブックを片手に、校内をうろうろする。
けど、何を描こう…
校長先生の銅像…は、人がたくさんいるし。植物を描こうにも、溝六先生がちゃんと綺麗に雑草を抜いたり手入れしているから、木とかになっちゃうし。木なんて描けないわ。そうだ、焼却炉なら…ダメ、もし絵が張り出されたりなんかしたら絶対浮く。
もー。時間なくなっちゃう…。
…結局、ここに来てしまった。
アメフト部の部室。
でも、描けそうなものは見当たらない。
やっぱり引き返そう。
そう思ったその時、
ガラリと部室の扉が開いた。
なんとなく、いるかなって気はしてた。
でもまさか、本当にいるなんて。
「何してんだ、糞マネ」
ヒル魔くんだ。
その手には、スケッチブック。
「…描くものを探しているの」
ヒル魔くんは、もう描いたのかしら。
「テメーが描けるモンは、この世にはねェ」
「しっ、失礼ね!」
でもなんだか、他に言い返す言葉が見当たらなかった。
そうよ、私は絵が苦手。
何が悪いのと、開き直りたくなる。
「ヒル魔くんは、もう描けたの?」