芯樹〜シンジュ〜

□FUCKIN’Cinderella
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「まだ出来ないのかい?」

 継母(ままはは)は、イライラした口調で少女をなじる。
「あ…はい、すぐに」
 少女がおどおどと返事を返すと、継母は、「あんた、さっきもそう言ったね」と嫌味を言う。

 きゃははは、と、嘲り笑う声がした。
 義理の姉が二人。
 上の姉ベスと、下の姉イルダ。
 ベスはコルセットをぎゅうぎゅうに締め上げ、ソバカスだらけの痩せた顔をしている。
 ベスとは対照的に、イルダはでっぷりとした体つきをしていた。
 お気に入りの桃色のドレスがはち切れそうなのに、気付く気配もない。
「無理よ、お母様。こいつ、何をさせてもトロいのだから」
 ベスは、ヒラヒラの扇子で少女の頭を何度も叩いた。
「まったく…死んだ旦那もとんだお荷物を遺してくれたもんだよ」
 継母は、ため息混じりに言った。

 少女は、その言葉が聞こえないフリをした。
 手が、震える。

 お父さん。
 どうして死んでしまったの…?



 実の母親は、数年前に亡くなった。
 哀しみに浸る間もなく、父親は新しい妻を迎えた。
 それは、道端で客をとるような下賤(げせん)な娼婦くずれの女だった。
 父親に見せる笑顔は、作り物のようで気味が悪い。
 だが、特に少女に何をするという訳でもないし、父親の寂しさを汲んでやらねばという気持ちから、少女は何も言わずにいた。

 しかし、優しい父親が病に倒れ、床から起き上がれなくなった頃から、女の様子が変わっていった。
 まず、少女の家に自分の娘を呼んだ。
 娘がいた事など、父親にも自分にも一言も言っていなかったので、少女は驚いた。
 それから、旦那の世話は自分が一人でやると言って、父親の寝室に近付く事を禁じた。
 どんなに父親に会いたいと乞うても、ガンとして断る。

 そして、父親が亡くなる寸前、少女はやっと顔を見る事ができた。
 久しぶりに見る父親の顔は、不自然なほどに真っ青で頬が痩(こ)けていた。
 父親は息も絶え絶えに、少女の名を呼んだ。
「…まもり」
 骨と皮ばかりになってしまった父親の手を握り締めたまもりは、泣くまいと涙をこらえながら枕元へ近付く。
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