芯樹〜シンジュ〜

□Rainbow shell
2ページ/8ページ

 部室には、もう誰もいなかった。
ロッカールームに、ノートが転がっているのが見えた。
「…あった」
 安堵してそれをカバンにつめた時、背後に気配がした。
 恐る恐る振り向いてみると、そこに居たのは、
「ヒル魔さん!」
 反射的に呼んでしまって、急いで口を両手でふさいだ。
 それは、普段の彼からは想像もつかない姿だったからだ。
 出入り口によりかかってる彼の髪は、雨ですっかり濡れていた。いつもツンツン立っているのに、今は無残に垂れ下がっている。
 それに、体中、傷だらけだった。
 何より、威圧感、覇気、というものがまったく感じられない。
 全身から雫を滴らせる彼の目は、虚(うつ)ろだった。
「ひ…、ヒル魔さん??」
 呼びかけても、返事は無い。
 ただ、違う、僕じゃない何かを、宙に探していた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ