芯樹〜シンジュ〜
□Rainbow shell
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部室には、もう誰もいなかった。
ロッカールームに、ノートが転がっているのが見えた。
「…あった」
安堵してそれをカバンにつめた時、背後に気配がした。
恐る恐る振り向いてみると、そこに居たのは、
「ヒル魔さん!」
反射的に呼んでしまって、急いで口を両手でふさいだ。
それは、普段の彼からは想像もつかない姿だったからだ。
出入り口によりかかってる彼の髪は、雨ですっかり濡れていた。いつもツンツン立っているのに、今は無残に垂れ下がっている。
それに、体中、傷だらけだった。
何より、威圧感、覇気、というものがまったく感じられない。
全身から雫を滴らせる彼の目は、虚(うつ)ろだった。
「ひ…、ヒル魔さん??」
呼びかけても、返事は無い。
ただ、違う、僕じゃない何かを、宙に探していた。