芯樹〜シンジュ〜

□Rainbow marble
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 部活にならないと、ヒル魔くんは、声をかけてこない。
 だから、私も無視をした。
 この人は、本当にマネージャーとしての私しか、必要としていない。
 その方が、楽だった。
 彼に深入りする、なんて、考えただけでも恐ろしかった。


 その日も、廊下ですれ違った。
 私も向こうも、一人だったけど、いつものように通り過ぎた。
 …はずだった。
 すれ違い様に、右手首を掴(つか)まれた。
「!?」
「な、ちょっと、ヒル魔くん!?」
 掴んどいて、こっちを見ようともしない。
「なんなの、離してよ」
 彼は、ガムを噛んでいるばかりで、何も言わない。
 ……ためらう?
 まさか、彼に限って。
「ねえっ、離してって…」
「姉崎」
「なにっ」
 返事をしておいて、気づいた。
 『姉崎』。
 初めて、『糞マネ』以外で呼ばれた。
 それから、彼は手を、そっと離した。
 その仕草が、妙に優しくて、どきりとした。
 『どきり』…?
 誰もいない廊下、ふたりきり、名前で呼ぶ…
 そういえば、このシュチュエーションって……
 急に、鼓動が早鐘を打ち始める。
 そんな…、ヒル魔くんに限って…! 
 ヒル魔くんが、ゆっくり私に向き直る。
夕陽が、金髪をオレンジに染めて綺麗だった。
彼の目が、私だけを見ている。
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