novel

□maximun douceurs
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10分後。





「カナトくんお待たせ!!」


ユイはカナトの部屋の扉を開けた。


「本当に遅いですよ…もう少しで僕、寝てしまうところでしたよ」

「う……ごめんなさい」


「…まぁいいです…僕は寛大なので」



「えっ!?」
ユイは普段なら怒り狂ったであろうカナトが待たされた事を怒らないのかと、拍子抜けした気分だった。



「早くそれを下さい」


「あ、うん。はい」



ユイがカナトの前に置いた皿の上には、




「……何ですかこれは…」




「卵焼きだよ」





黄色い卵焼きがほかほかと湯気をたてていた。





「…これは食べられるのですか?」
訝しむカナト。

「食べられるよ!」



カナトは初めて見るようで、しばらくじっと目の前の黄色い物体を見つめていたが、




「では…いただきます」



フォークを手に取り、それに刺した。



そうしてゆっくりした手つきで口に入れた。



もぐもぐ、と可愛らしく口に入れたものを咀嚼するカナト。
その様子にユイの顔も少し綻ぶ。


「どう?おいしい?」




「………塩辛いです」




ぼそりとカナトが呟く。



「え?」



「どうしてこんなに塩辛いんですか…!!」



「え!?だってカナトくんが塩っぽいのが良いって…」




「…っ!!僕がそんなことを言うわけないじゃないですか!!」




カナトは手に持っていたフォークと皿ごと卵焼きを床に投げ捨てた。



パリン、という渇いた音がした。



「きゃっ……!!」


「…ねぇ、ユイさん、どう落し前つけてくれるのですか…!?こんなに塩辛いものを食べさせるなんて……うっ…ひっく……ひどい、ですよ……!!」

ついにカナトは泣き出してしまった。




こうなってしまったカナトを鎮めるには……





ユイはそばに放置していたマカロンの皿をカナトの前に差し出す。





「こっ、これっ!!」




暴れていたカナトの動きがピタリと止まった。




「………マカロン…?」




「これで…機嫌、なおしてくれる…?」




苦肉の策とはいえ、我ながらナイスな判断だと思った。



甘いものをあげれば泣いていようが怒っていようが、カナトは落ち着いてくれるはずだ。






しかし。






「…そんなもので僕の機嫌はなおりませんよ」





地の底から響くような低い声でカナトは言い放つ。



「え………」


「あなたは僕に甘いものをあげれば機嫌がなおると思っているでしょう?」



カナトは床にへたりこんでいるユイに近寄る。



そうしてユイと目線が同じになるようにしゃがみこむ。




「本っ当に貴女は馬鹿ですねぇ……ふふ…僕をそこまでなめてもらっては困りますよ…」





ユイは恐怖で身震いした。

「あれぇ?震えてますね?僕が怖いですか?」


「…ち、ちがっ…」


「大丈夫です、殺したりなんかしませんから。…ただ」





カナトはユイの手を引き上げ、その勢いでユイの身体をベッドにやる。






「その甘ぁい血を、口直しにください」











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