novel
□sonore de sang
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学校も終了したある日。
ユイは音楽室に向かっていた。
理由は至極簡単で、レイジからシュウを呼びに行くよう言われたからだ。
『シュウはあなたのことを、相当気に入ったようですから』
先程レイジにそんなことを言われたのを思い出す。
(そんな風には思えないんだけどなぁ……)
ユイは、自分に対するシュウの態度は普段の無気力なそれと何ら変わらない。
シュウが自分を気に入っているようには全く思えないのだ。
餌として、ならば話は別だが。
吸血するときもシュウは無気力な雰囲気だが、少しだけ楽しそうな表情を見せるのだ。
それがシュウが見せる数少ない表情のレパートリーでもあった。
あの表情が、本物だといいな…
ユイはそんな風に思っていた。
「シュウさーん………?」
そろそろと音楽室の扉をゆっくり開け、中を見回す。
床の上に何かうごめくものがあった。
シュウが床の上で寝ていた。
「もー…シュウさーん?起きてください?」
シュウは両耳にイヤホンをさし、本で顔を覆って寝息をたてていた。
ユイは少し躊躇いながらもその本をどかす。シュウの端正な顔立ちがあらわになる。その両目は閉ざされている。
「…シュウさん?」
……呼び掛けても返事がない。
今度はイヤホンを片方外し、
「シュウさん!!レイジさん待ってますよ!!」
と、先程より少し大きな声で言う。
「…………起きてる。」
やっと返事があった。
ユイは少しほっとした。
「…全く、誰が俺の唯一の楽しみを邪魔したのかと殺意が沸いたけど、あんたか」
「あんたじゃないです!ユイって名前がちゃんとあります!」
「うるさいから……もうそれ以上騒ぐな…」
シュウはやっと上半身を床から起こした。
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