短編集

□とある異界旅行者の願い
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 世界は繰り返す
 終焉の時を迎えることなく廻り続ける

 世界は幾つにも分岐し、それらは決して交わる事なく進み、止まることを知らない

 一人が消え様とも、一人が生まれ様とも、世界はそれを無視して廻り続ける

 消えた人は新たな生命へと生まれ変わり、純白の天の使いの羽の様なまっさらな状態へと帰り、それに纏わる全ての因果が清算され、新たに歩みを進める

 それは全ての人、命に平等に天から与えられた宿命であり、運命である

 幾つにも分岐し、根本的な所では酷似しているが、異なる形を見せている世界にも共通である

 それを、――世の理――と皆は呼ぶ


 天が定めし理を、幸か不幸か俺は破ることになってしまった
 それも一度きりではなく、夜空に煌く星の数程までに、俺は禁忌を犯していた


 償うことの出来ない程深い罪を犯した俺に天は罰を与えたのか、一人の少女を救う為に幾度も痛みと苦しみを味わってきた

 鋭い刃が身体に深く突き刺さり、紅い鮮血に塗れ、息をすることさえ許されない苦しみを与えられ、激痛に苛まれ、消えて行く

 そして消えた先に微かな希望を抱き、待ち望んでいた世界では、愛しい少女を守り、ただひたすら彼女の幸福を願った


 それでも、俺は彼女の幸福を見届けられなかった――――

 なぜなら、彼女の幸福との対価が、俺の生なのだから

 それを知りながらも、俺は苦しみと痛みの中、決して結ばれることのない愛しい少女の幸福を願いながら、廻り続ける

 突然の浮遊感に襲われ、深い奈落の底に身を投げ、身体の芯から壊れて行く感覚を味わい、少しずつ世界から自分だけが切り離されて行く悶絶する苦しみを感じながら、一人孤独に消えて行ったとしても

 ――彼女を救える事を胸に希望を抱き続けるだろう

 最後まで彼女の幸福を見届けることも出来ずに、底が計り知れない程離れている冷たい床に身体を叩きつけられ、脳髄にまで刺激が浸透し、身体が粉々に砕け散ったとしても

 ――俺は彼女の幸福を祈り続けるだろう
 
 身体を鋭い程の勢いで跳ね飛ばされ、何を思う間もなく足元から上半身にかけて、一瞬の内にのた打ち回る様な激痛に襲われながら身体が崩れていく感覚を味わい、原型を留めずにに跡形もなく俺が消えていったとしても

 ――彼女の微笑みを守り続ける事を誓うのだろう

 彼女に幸福が訪れるが故に、俺は必ず世界から消えて行くとしても、俺は彼女の事を恨まない

 精神が狂い崩壊しても、俺はただただ彼女の幸福の為に進み続ける

 終わることのないメビウスの輪の上を一人、彷徨い歩きながら俺は終焉の時を待ち望む




 ――――彼女が完全なる幸福を得て、俺が世界から消えるその日まで














 
 

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