短編
□秘密
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落ち着かない彼女を目で追う。
ふらふらと楽屋を行き来する彼女。
ふらふらしてたと思ったら、今度は私の向かい側 のいすに座った。
座って落ち着いたかと思ったら貧乏揺すり。
…違う。貧乏揺すりじゃない。
震えている。
今だってお菓子を取ろうとしている手が震えてい る。
そろそろ、かな。
私は立ち上がって彼女の方へ向かう。
「…珠理奈。おいで」
ゆっくり頷いてから立ち上がった彼女の震える手 を握る。
そして誰も見ていないのを確認してから空き部屋 に入った。
それから私はいつものように彼女を抱き締めた。
「大丈夫、大丈夫。」
こういいながら彼女の背中を擦る。
そうすると彼女の震えは治まってきた。
「玲奈ちゃん…ありがと…」
きっと彼女のこんなに弱々しい声を聞いたことが あるメンバーは私くらいだろう。
珠理奈の変化に気づくようになったのは1年前く らい。
忙しくてあまりレッスンに出られなかった珠理奈 。
心配で話しかけようとしたら彼女は震えていた。
メンバーに気づかれないように楽屋の奥に座り込 んで…
私はどうしていいかわからなくてとりあえず珠理 奈を連れて空き部屋に入った。
そして震えを止めようと抱き締めて、大丈夫、大 丈夫と背中を擦った。
震えが治まってきたとき、珠理奈が口を開いた。
「玲奈ちゃん…ありがと。あの…さ…もしまた震 えたら…抱き締めてもらっても…いい?」
そう言われたときから私は珠理奈を目で追うよう になり、いつしか震えがくるタイミングがわかる ようになった。
彼女は震えだすとさりげなく私の近くにくる。
そしてまたあの儀式のようなものをする。
バレないように、静かに。
これは彼女と私だけの秘密。