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□二人の世界で 2
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コンビニに入ってカゴを取り、
店内をウロウロしていると。

「あ」
「…?」

八田美咲、一生のうちの何度目かの最悪な危機に直面。

「猿…!」
「……美咲」

猿比古に会ってしまった。

「お前…っこ、こんなところで
何してんだ」
「…は?お前には関係ないし」

まあ、そうだけど…
つーか、今こいつだけには会いたくねぇんだよなぁ…

返答に困り黙ってしまった俺は、むうっと頬を膨らませて俯いてしまった。
猿比古は、チッと鋭く舌打ちをして、下の棚の品物を取るためにかがんでいた身体を起こすと、

「馬鹿、そんな顔すんな」

膨らんだ頬をむぎゅっと掴まれた。
いつもには見せない、少し優しい猿。
あぁ…こいつも同じ気持ちなのかなぁ、と余裕そうにそう考えていると、ぷっと変な音と共に溜めていた空気が口から出て、羞恥から顔に熱が集まったのを感じる。

「は、はなひぇっ…‼」
「離して欲しい?」

うーうーと頷く俺からゆっくり
離れた猿比古は、俺の頭をぽんぽんと撫でて、レジに向かって行った。

「あ…」

って、あー馬鹿!俺は何甘ったれた声出してんだよ!!

「……っ!」

咄嗟にばっ、と聞こえないように両手で口を抑えた。
幸いにも、猿比古には気づかれていなかったので安心したが、

『……何か、チクチクする…』

猿比古がさっき離れてから、心臓の奥というか、言葉では言い表せないような箇所がチクリと痛み、俺は顔をしかめる。

何だよ、もう…今までだって
会わなくたって平気だったじゃねーか!

今さら、もう……

「ありがとうございましたー」

気だるげな店員の声が響いて、
ハッと顔を上げると、猿比古が
コンビニを出て行くところだった。

ズキン、

「…っ猿比古‼」

帰ってしまう

強烈な胸の痛みと共に、俺の目の前は暗くなる。

さるがいま、かえったら

おれは、

ヒトリ………

『また一人になるのかよ』

瞬間、脳裏によぎったその言葉。
いきなり強くなった胸が捻じ曲げられるような痛みに耐えきれなかったのか、俺はダッシュで店を出て、離れていく猿比古を必死に追った。


*****


「…美咲?」
「ちょ、ちょっと待て…‼」

ぐいっと隊服を引っ張られて、
俺はぎょっと目を剥いた。

「…何だよ」
「…え、えと…え、と…」

特に用はなかったのか、どうしようと目を彷徨わせる。

「…俺もう帰りたいんだけど」

夜勤明けで疲れたと素っ気なくそういうと、馬鹿な美咲は泣きそうな顔をして、俯いてしまった。

「……美咲?」
「………馬鹿、猿…っ」

そういえば昔っから考えるより先に身体が動くタイプだったなぁ、と俺は小さく溜息をついて、
美咲の手をとった。

「……美咲、顔見せて?」
「......う」
「何で…そんな顔してんの?」
「…っ」
「美咲、」
「…っだ、やだっ…!」

言うことを聞いてくれない。
まあ、相変わらず馬鹿だというか、情緒不安定というか…、と俺はクスリと笑った。

「…とりあえず、家に行きたい」

美咲をこのまま放っておけない。
そんなことは本能的に分かっていた。
それに、今なら何か、自分達にとって必要なことを分かち合えるかもしれない。
そこで話そうと言うと、
美咲もそれくらいは分かってくれたみたいで素直に頷いた。

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