犬猿Office

□特殊な人事
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「ちょっと、待って!」

必死で追いかけて、戸田に追い付いた。
腕をつかんで振り向かせると、今まで見たこともない嫌悪感を隠さない視線に射ぬかれた。

「何ですか?」
「あの……今の……」
「あぁ」

戸田は見下した目で俺を見た。

「驚きました。原田さんがあんな本音を隠してたなんて」
「ちょっと」

俺は思わず、戸田を人気の無いとこまで引きずっていった。

「誰にも話すなよ」

屋上であんなことを叫んでいたなど、人に知れたら最悪だ。
が、戸田はまさに鬼の首を捕ったかのようだった。

「口調が気に入りません。要求ができる立場だとでも?」

にっこりと微笑むその顔は、まるで悪魔だ。

「テメェ……」
「いやぁ、女性社員に人気の原田さんの本音、皆さんがしったらどう思うでしょうね」
「ぐ……」

俺は思わず言葉に詰まる。
我慢も限界だか、立場も悪い。

「これだから、男って」

絶対的優位に立つ戸田の、勝ち誇った声。
が、そのセリフは俺の堪忍袋の緒を刺激した。

男がなんだって?
そもそもの原因は、女が俺にストレスを与えたせいだろ。

「野蛮で大嫌い。今も怖いわ。こんなとこに連れ込まれて何をされるか。叫び声をあげたら、どうなるかしらね」

プツンと、何かが切れた気がした。
溜まりに溜まったストレスもあり、俺は完全にぶちギレた。

「誰がテメェなんかに手ぇ出すかよ」

俺がそう言うと、戸田の勝ち誇った顔がひきつった。

「色気の欠片もねぇくせに、何寝ぼけてんだ。馬っ鹿じゃねぇの」
「なっ」

俺の馬鹿にした口調に、戸田の表情が歪む。

「下心が無さそうな奴だと思ったけど、理由が分った。男を見下してるんだ」
「何ですって!?」
「あれか?昔男にフラれでもした?で、プライド保つために勉強して仕事して男より上に行こうとしてんだろ」

こうなるともう止まらない。
俺も、戸田もだ。

「そんなわけないでしょ!」
「どうだか。どうせ今まで彼氏なんかいなかっただろ」
「そういうあんたはどうなのよ」
「はぁ?」
「人のこと言えるの?あんなのが本音じゃ、何となく予想つくけど」
「…………」
「何よ」
「彼氏いなかったは、否定できねぇみたいだな」
「あんたもじゃない!!」

「はい、そこまで」

不意に橋本部長の声がして、俺と戸田は振り向いた。
見ると、いつの間にかギャラリーがたくさん。

そりゃそうだ。
いくら人がいないとこでも、あんだけ大声で言い争えば何事かと人が来る。

「あー、とりあえずだ、2人とも。オフィスに戻ろうか」





その後、俺と戸田がみっちり起こられた詳細は、けして語りたくない。
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