犬猿Office

□特殊な人事
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都内に本社を構える東商事。
その東商事には少し特殊なシステムがある。
それは、営業と事務がコンビを組むというものだ。
数年前から始められたこの仕組みは社内で効果を発揮し、今でも続けられている。

5月のゴールデンウィーク明け。
新人研修を終えた俺、原田も、当然ながら事務とコンビを組む。
入社前、もっといえば就職活動中からこのシステムを知っていたから文句は無い。
無い、が。

こういうと自慢に聞こえるが俺の容姿は悪くはないらしく、女子に好かれることが多々あった。
問題は俺のそれに対する感想。

正直いって、煩わしかった。

頑張って合わせようとしている会話にも、流行を追いかけたファッションセンスにも。
見え隠れする恋愛に持っていこうとする本心と、そのために行うあの手この手。
個性の無い、モテるための装飾。
うってかわって空っぽな頭の中。

学生時代はそれらに対する嫌悪があからさますぎて、誰からも告白されなかった。
当然、彼女がいたことはない。

が、社会に出てからはそうはいかない。
入社式からこっち、話しかけてくる女性に無難な態度をしていた。
学生時代同様の煩わしさ。
違うのは、勝手に離れていってくれないこと。

正直疲れる。
組まされる事務の女性社員にも不安が芽生える。
コンビとあれば二人三脚。
事務に足を引っ張られれば、俺の成績にダイレクトに響く。

大概、恋愛にかまける女性に限って、仕事に手がつかない。
仕事をしっかりすれば俺としても評価するが、仕事そっちのけで恋愛対象にされたら最悪だ。
それにすら気付かないなら、尚更。

だから、コンビが発表されて相手の事務員とあいさつをしたときは安心した。

相手の名は戸田。
見た目はブスではないが派手でもなく、社会人として常識的な外見。
口調や表情からは真面目さが垣間見え、頭も良さそうだ。


「原田です。これからよろしくお願いします」
「戸田です。こちらこそよろしくお願いいたします」


相手が美人がいいなら物足りなかったろう。
が、そんなことよりも仕事が出来るか否かが重要だった俺にとって、戸田はまさに当たりだった。

席も隣同士になり、俺と戸田のコンビとしての仕事が始まった。


これが悲劇の幕開けとも知らず。


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