犬猿Office

□特殊な人事
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戸田との仕事は、お世辞なしにやりやすかった。
戸田はよく気が付くし、手を抜かない。
事前に誰と組まされるか不満があった自分が少し傲慢に思えるほど、 戸田との仕事は順調に進んでいった。

俺たちの上司は橋本部長という。
40代後半の橋本部長は、社内でも人望のある人だ。

「原田くんは新卒なのに、本当に仕事ができるね」

仕事の合間に、橋本部長にそう誉められた。

「ありがとうございます」

有能な上司である橋本部長に誉められるのは、嬉しくもこそばゆいものだ。

「でも、僕だけの実力じゃないですよ。戸田さんも仕事ができるからです」
「君も戸田くんも、期待の新人だよ。慣れない中で大変だと思うけど、分からないことは何でも聞いてくれ」
「はい」

嬉しさと誇らしさで一杯になり、俺は自分の席についた。

「嬉しそうですね」

隣の戸田が、パソコンで事務仕事をしながらそう言ってきた。

「誉められた」
「原田さんは、有能ですね」
「そんな、戸田さんがいろいろ気付いてくれるからだよ」

事実、戸田に確認してもらうと、ちょっとしたミスに事前に気づける。

「コンビが戸田さんでホントに良かったよ。これからもよろしく」
「こちらこそ」

そう言って微笑む戸田の顔には、今まで俺に対して微笑んできた女性にあった下心が無い清らかなものだった。







そんな順調な毎日も、何だかんだでストレスは溜まる。
最大の原因は、やはり女性社員だ。
何かと理由をつけて話し掛けてくる。

いや、話し掛けてくるぐらいなら、まだいい。
ただ、忙しいときにその延長線で下心丸見えの話をされるとイラつく。
仕事中だろ。
こっちは真面目に仕事をしたいんだ。

「馬鹿馬鹿しい……」

屋上で、1人呟いた。

どうして俺の周りには、あんな女性ばかりよってくるんだ。

(……誰もいないよな……)

キョロキョロと周りを見るが、屋上には俺1人だ。

「あー、もうふざけんじゃねぇよ!うるせぇんだブス!俺はテメェみたいな頭も尻も軽そうな女に興味なんかねぇよ!失せろ!仕事以外で話しかけんじゃねぇ!!」

一気に毒を吐き終えた。
ちょっとスッキリ。
本当はあんまりいいことじゃないけど、こうして吐き出しでもしなけりゃ、ストレスは溜まる一方だ。

言い方を変えれば、吐き出したいほどに溜まってたわけだ。

だから気付かなかった。

背後の扉が開いてたことも。

そこに人がいたことも。

背後に人の気配を感じて、ドキリとして振り向いた。

そこにいたのは、戸田だった。

聞かれた。
その事実に冷や汗が流れる。

「ふぅん……」

戸田は今までの印象からは考えられないほどの冷えた顔でそう呟くと、さっと扉の向こうに消えた。

ヤバい。

その考えに突き動かされ、俺は戸田を追いかけた。
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