犬猿Office

□新入社員歓迎会
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そんなこんなで金曜日。
半ば強制参加のように、俺も飲み会に誘われていた。
まぁ、新入社員の歓迎会だし、飲み会も酒も嫌いじゃない。

橋本部長は何だか楽しそうだ。
高度経済成長期はすでに昔のことだが、飲みニケーションという言葉を思い出した。
橋本部長、もしかしたらその世代だろうか。



飲み会は少しの遠慮を孕んで進んだ。
職場の仲間と来ているんだから、確かに友達と来たときのようにはならないだろう。

まぁ、それでも困るのは、やはり女性相手だ。

「原田くん、飲んでる?」

酔った勢い、またはふりでそう声をかけてくる女性が多い。
何とか長話にならないように適度にトイレに立ったりしているが、そればかりではかわしきれない。

何でこうなる。
俺以外にもいい男はいるだろう。

そう思い周りを見渡し、同期で同じ営業の荒川を探した。

荒川は昔からの友達だ。
はっきり言って馬鹿な奴だが、俺と一緒にいれば大丈夫と高校も大学も就職先も付いてきた。
あれ、なんかキモい。
いや、ただの友達だけど。
で、だ。
俺は毎回手を貸していないが、それでも腐れ縁が続いている。
正直、あいつは東商事にも、よく就職できたなと思う。

そんな荒川だが、女子人気は昔から高かった。
加えて、俺以上の社交性を持っていたので常に女子に囲まれていた。
俺の女子嫌いに引いた女子は、大概は荒川に流れていったんだ。

今回もそうなればと荒川を探し、無理なことがわかった。
荒川の隣には、同期の女性社員の中で最も派手な大谷という子が陣取っていたからだ。

なるほど。
大谷が荒川にお熱なために、他の女性は荒川に手が出せない。
荒川狙いの女性は、そのために俺に流れてきてるというわけか。

最悪だ。
これは今までに溜まったツケなのか。
でも、荒川は女子が集まってた方が嬉しかったんじゃないのか。

どちらにしろ、荒川にながれてもらうことはできない。
さて、どうしたものかと考え、とある奴に目が止まった。

戸田だ。

積極的に男性に話し掛けてこないような、地味な女子と一緒にいる。
隙を付いて、俺は戸田の隣に移動した。

「飲んでるか?」

どう声をかけたらいいものか、無難なことを言ってしまった。
周りの女性社員が、明らかに動揺している。
頼むから派手な女性社員と席を変わらないでくれ。

「…………何?」

嫌悪を隠さない戸田の声。

「何って、そんなツンケンすんなよ」

今は我慢だ。
あの女性社員の相手に比べれば。

「なっ、仲、コンビなのに、悪いんですか?」

地味な女性社員のうち1人が、たどたどしく問いかけてきた。

「こいつがツンデレなだけ」
「デレは無い、デレは」

睨み付けてくる戸田。
何だか、目が据わってないか?

「お前、酔ってる?」
「酔ってない」
「でも」

今までとれだけ飲んだか、周りの女子に目配せすると、渋い顔をされた。
どうやら、かなり飲んでるようだ。

「ほどほどにしとけよ」
「平気」

戸田はそう言うと、グラスに残っていたビールを煽った。

「戸田くん、いい飲みっぷり!」

完全に出来上がった橋本部長が、そう言いつつ近寄ってきた。
ビール瓶片手に。

「…………」

戸田は無言で、グラスを橋本部長に差し出した。
当然とばかりに、橋本部長がビールをそそぐ。

「おい」

俺が止める前に、ビールは戸田の口の中に消えていった。

「さ、原田くんも」

橋本部長はそう言うと、ビール瓶をこちらにも向けてきた。
上司のお酌を断るわけにはいかず、結局俺もグラスを差し出したのだった。


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