大奥への扉

□表と裏 7 〜日向vs永光 編 〜
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「兄上、私は平気でございます。ですから、心配なさらず茶会へ行って下さい。
私のせいで大事な縁談に問題でも起これば、母上もお怒りになるはずです。
それに、本日は朝から体調がすぐれない様子だと聞いております。無理をしては
なりません。」

「・・・・・家光」

着物を掴んで訴えるような視線を日向に精一杯むけた家光に、次第に日向の表情が柔らかいものへと戻っていく。
その光景を見た永光はまたしても、普段とは態度が違う家光の言動によくもこんな演技ができるもんだと唖然としたのと同時に、その眼差しが自分にむけられない事に苛立ちを覚える。

「では、上様、参りましょう。」

この苛立つ状況から一刻も早く連れ出そうと、永光は日向の着物を掴む家光の手を
乱暴に引き離すと自身の方へと引き寄せる。
しかし、その寸前で日向の手が家光の半対側の手を掴み引き止める。

「・・・・・待て。誰が貴様に頼むと言った?お前こそ今から公家共と逢瀬
があるのだろう?」

両手を永光と日向に囚われ、再び睨み合いが始まったのに、家光は青ざめるのと同時に
日向に「良い妹」を演じるのもここまでかと、断念する。
意を決して口を開こうとした矢先・・・・


バンッ!!!

目の前の襖が勢いよく開かれ、同時にその部屋の主が現れる。

「・・・・先ほどから何事ですか。騒々しい。」

眼鏡を左手であげながら表れた人物を見て、三人同時に辺りを見渡しここが運悪く
その部屋の持ち主である事に気付く。

「これは・・・・春日局様・・・・。」

永光が顔を引きつらせながら微笑む。
春日局は永光に見向きもせず、目の前の状況に目が止まる。
互いの手が家光の腕を掴み、当の家光は白無垢の着物一枚で裸足状態。
物陰からは野次馬のごとく女中達が恨めしそうに覗き見しているこの状況に、呆れてため息を吐く。

「何があったのかは存じ上げませんが・・・・・。お二人とも、恥ずかしくはないのですか?ここは仮にも江戸城。将軍の手を止め行く手を阻むなどあってはならない事ですぞ。」

冷酷な眼差しを向けながらも、春日局は前へ出ると自身の羽織っている内掛けを脱ぎ
流れるような仕草で日向と永光から家光を守るように、肩からふわりと内掛けを
掛けた。

その、自然な春日局の行動に日向と永光は途端に羞恥心がこみ上げてくる。
何故、これまでの長い時間に互いの存在ばかり意識し、一番気遣うべき所が
出来なかったのかと、今更ながらに後悔する。

「家光・・すまない・・・・。兄として、お前の身体を一番に気遣うべきであった。」

後悔に胸を打たれながら、日向の握る手に力が込められる。
しかし、冷酷な表情のまま春日局の手がその掴む手をあっさりと振りほどく。

「日向様。このような場所に戯れるお時間がありましたら、一刻も早く崇源院様の元へと
出向いて下さい。約束のお時間に遅れては、御台所となられる菊様に失礼です。」

「それから、永光殿。公家の逢瀬の時間は目前に迫っています。準備は抜かりなくできているのですか?示談が失敗すればまたも次回の議会に持ち越しになります。今回は
失敗は許されませんよ?」

春日局に痛い現実を突きつけられ、日向と永光が同時に家光の腕から手を離す。
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