大奥への扉

□表と裏 10
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「暖かい・・・・」

太陽のような光は家光の手を包み込み、それだけで家光の心が熱くなる。
それが何故か家光には泣きたくなるほど切く、胸いっぱいに広がった。

(帰らなければ・・・・私は・・・・務めを果たすまで逃げる事は出来ない・・)

そして家光はその眩しいほどの光にゆっくりと瞳を閉じた。
光は次第に強くなり、家光を包み込むように放たれた。



 " お前を助ける為に俺は強くなるから目 の前から逃げるな ”


消えかかる意識の中で遠い昔に聞いた声がふと記憶に蘇ってくる。
今更思い出した事に何故か可笑しく思いながらも家光は微笑む。


(例えお前が約束を忘れていたとしても、私はもう逃げなどしない。それが私の望む世界であり私の居場所はここ以外にどこにもないのだ。)


                          ・
           ・


そして意識は遠のいていった。

 


「・・・・・・」


目の前に眠る家光の姿に立ち尽くす男が無言のまま下を見下ろしていた。
そして何かに気付いたかのように、ゆっくりと膝をおり手を伸ばす。
その伸ばした指先にはきらりと光る涙の雫が触れた。

「何・・・泣いてんだよ。お前らしくない。とっとと、起きろ生意気女。」

小さく呟くように言うと、着物の懐から何かを取り出す。
その手の中にある物がリンと鈴の音をたてた。

「・・・・こんな物まだ持ってたのかよ。馬鹿じゃねぇの。俺はあの日に川へ投げ捨てたんだぞ・・・。」

そう呟くと一瞬手のひらに力を込め握ったあと、ゆっくりとそれを家光の枕元に置く。
そしてその横に雪のように白い顔をしながら眠る家光に視線を移す。

「・・・・・剣の勝負もまだ決着がついてねぇんだ。・・・待ってるからな・・。」

何かをためらうような顔をしながらもその場から立ち上がる。
そして踵を返すと静かにその部屋を出て行った。
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