大奥への扉

□表と裏 11 〜近づく距離〜
2ページ/4ページ


「何が可笑しいのだ・・・。」

その永光の態度が家光の勘に障ったようで咄嗟に家光が涙を流したまま顔をあげ永光を睨む。

「いえいえ・・。あまりに可愛らしいお姿を拝見出来てたまには床に伏せるのも悪くはないと・・・思っただけです。」

そこで短い沈黙が流れる。
家光は目の前で愛想よくいつものように微笑む姿を見てやっぱりこの男は腹黒い奴だと
納得した。
短い沈黙の後、急に羞恥心がこみ上げて来た家光は何か喋らないとと、慌てて口を開く。

「しかし、側室など、もともと・・・私が決める前にお前になっていたのだから今更言うまでもない。兄上とお前が因縁の仲だから側室など有り得ないと断っただけだ・・。」

そっぽを向きながら言う家光の顔はどこかしら赤いようにも感じとられた。
永光はたった今家光が言った言葉の意味を考える。

「あの・・・・上様。それは・・・・私を側室にしていただけると・・・・
そう解釈して宜しいのですか・・・?」

おそるおそる永光は家光にその言葉の意味を聞く。
恥ずかしい気持ちを抑え、口に出した言葉を再度問われ更に同じことを言わせようとする永光の態度に家光もむきになる。

「だ、だから、この前私が反対するのも聞かずに、春日局がそう書状を出してしまったと申しただろうが!!何度も言わせるな!このたわけ!!」

「!!!」

病み上がりだというのに家光は顔を赤くしながら大声で永光に言い放つ。

「・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・?永光?」

てっきり何時ものように何か言い返して来るのかと思いきや、何も言ってこないどころか黙り込んで下を向いている永光に家光がどうしたものかと不思議に思い、永光の顔を覗き込もうとする。

「・・・・・っ!!上様、あ,あまり見ないで下さい!!」

永光の顔は今まで見た事がないくらいに赤くなっており、それを隠すように口元を手で覆っていた。

「・・・??どうかしたのか?」

家光は意味が理解出来ない様子で首をかしげる。
こういう態度をとれば普通の恋多き女子ならば察する事も、家光にとっては何に動揺しているのかさっぱり解らないでいた。

(・・・まさか、この私がこんなたった一言で浮かれるほど舞い上がるとは・・・・
迂闊にも程がありますね・・・・。)

永光は取り合えず、舞い上がる気持ちをどうにか抑えて顔を上げると普段通りに笑顔をみせる。

「あ、あの、上様、とりあえず横になって下さい。暫くはこの部屋から出る事も出来ませんし、今はしっかりと療養なさって下さい。」

ふと、告げた永光の言葉に家光の顔付きが一瞬で変わる。

「・・・・・おい。まさか、私が倒れている間全てをあやつに任せているのか?」

一瞬で顔付きが変わった家光に永光も余計な事を口走ってしまった事に後悔するが、黙っていてもいずれは耳に入る事なので仕方なく頷いた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ