大奥への扉

□大奥 〜追憶の約束 〜 @
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大奥 〜 追憶の約束 編 〜 1



「 君がため 惜しからざりし 命さへ
    ながくもがなと 思ひけるかな 」

女中が読み上げた札に家光は難しい顔をする。

「・・・・姫様、いかがなさいましたか?」

やけに難しい顔をする家光に首をかしげながら女中が顔を覗き込む。
家光の前にはいくつもの札が並べられ、それを睨むような顔付きで眺める。

「・・・・こんな歌を詠んで札を取る遊びが何の為になるのか考えておっただけじゃ。」

そう言い放った家光を女中が見て呆れた顔でため息を吐く。

「・・・・・姫様?歌が書ける様になればいずれ役に立ちますよ。まだ姫様は12ですが
いつか素敵な殿方に見初められて思いを歌にして贈るのです!!」

輝くような瞳でまるで自分の事のように妄想を抱きながら家光の目の前にいる女中がうっとりと世界に浸る。
そんな姿に今度は家光が呆れてため息を吐く。
それはまだ家光が12の年頃でまだこの世に「女人の天下」などが許されておらず、
徳川の姫としてそれはそれは大層美しく育ち、煌びやかな着物を身に纏い平和な生活を
していた頃であった。

女中は家光の態度には目もくれずにおかまいなしに話を進める。

「今私が申し上げた歌は、
”あなたのためなら、捨てても惜しくはないと思っていた命でさえ、逢瀬を遂げた今となってはあなたと逢うためにできるだけ長くありたいと思うようになりました。”
・・・・という歌なのです。ま・さ・に、儚き恋を目前に狂おしいほど愛おしいという心情なので
ございますよ!!きっと・・・・」

読み札を高らかに持ち上げ感極まり物思いにふける様に叫ぶ姿に家光も呆れて言葉が出ない。

「・・・・・なんじゃ、つまらん恋の歌ばかりじゃな。どれもこれも、悲劇の主人公のような哀れな自分を思い込んだ歌ばかりではないか。私には到底理解できぬ。」

そう言うと家光は目の前に広げてある札をザァッと振り払い立ち上がる。

「ひ、姫様、どこへいかれるおつもりですか!?御台様にみつかればまたおしおきされますよ!!」

慌てて女中が家光が部屋から出て行こうとするのを家光の前に回りこんで頑なに止めようとする。

「宮局、そこをどけ。香合わせも歌遊びも退屈で詰らぬ。
それにもう活け花と茶の湯の稽古もすんだからもうよいな?約束だったはずじゃ!」

家光は当然とばかりに女中に詰め寄り睨みつける。
確かに女中は今朝、家光があまりにも男児のような格好で五彩と共に城にやって来た男児と走り回ったり、剣の稽古をしたがる為条件を出したのを思い出す。

「た、確かに約束はいたしましたが・・・。で、ですが、茶の湯も活け花もまともに出来ないではありませんか!いいですか?徳川の姫たるもの、教養に礼儀作法をしっかりと見つけておりませんと
後々の輿入れに差支えます!!罰を受けるのはこの私目にございますよ!!」

まくしたてるように女中が一気に家光に向かって大声を出す。
が、言ってしまったものの家光の冷たい視線に我に返り、慌てて急いでひれ伏し頭を下げる。

「も、申し訳ございません・・・。わ、私は姫様の為を思いまして・・・・・」

勢いでついつい本音を言ってしまった事に女中が青ざめるように顔を伏せる。
当の家光はそんな女中を上から見下ろしていたが、特に気にするでもなくその場を通り過ぎる。

「・・・・・では、お前は暫くここに私と稽古をしておることにしておくのじゃ。母上が来ても
ばれぬようにするのじゃ。」

「えっ・・・・!!そんな、無理です!!あ、姫様?お待ち下さい!!そんな嘘をつけば
私が城から追い出されてしまいます!!姫様ーーーー!!」


女中が追いかけようとするものの、あっという間に家光は目の前の縁側から飛び降り庭を突きぬけ
走り去って行った。
残された女中はおろおろと、ここで部屋を空けるわけにもいかずに呆然と立ち尽くす。
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