大奥への扉
□大奥 〜追憶の約束 〜 @
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「どうかしたのですか・・・・?」
ふいに後ろから声をかけられて驚いて振り返ると御台所付きの中年寄がそこに立っていた。
「ひぃっ!!な、なんでもございませんっ!!そうです、厠に姫様が突然行かれると申したので
ついて行こうとしたのですが、先に行ってしまわれまして・・・。」
咄嗟に出た嘘に中年寄も女中の態度に一瞬眉間にしわをよせ、怪しむ。
「・・・・・まぁ、あの姫様ならわからなくもないでしょうが・・。しかし・・・・
御台様の実子というのにもかかわらず本に教養がまるでなってないではありませんか・・?
よいですか、14の歳までには完璧に躾致すのですよ?
全く・・・・・あれが若君であれば跡継ぎに申し分なかったのですがねぇ・・・。」
呆れたように言う中年寄に女中はひたすら謝る以上に返す言葉もなかった。
一方、家光は身をまとっていた煌びやかな着物を脱ぎ、途中で出会った小上臈と無理矢理
着物を交換し、裏口の門から"使いに来た下働きの下女の娘だ”と適当に嘘をつき城を抜け出していた。
一応徳川の姫ということもあって、家光が城から出る事はほとんど許されず余程の事がない限り
城下へ行くことも許されなかった。
そんな家光が最近名案だと思いついたのがこの、小上臈や下働きの子供と成り代わって
城を抜け出すという作戦であった。
服装が違えば大人たちは子供だからと軽快することもあまりなく、城の門から通行証のみで出入りできた。
一度成功するとくせになり、家光は月に一度はこうして町人の娘として城下へ降りていたのであった。
「やはり城下は人で賑わっていて楽しいな・・・・」
城下へ足を運ぶと、あちこちで商人が行きかい、物を売る商売人や楽しそうに買い物をする武家の娘達や走り回る子供達が視界に入る。
この光景を始めて見た時はあまりの活気と賑わいに感動したのを家光は今でも覚えている。
家光は浮き立つ気持ちを抑えながら、店を回って歩き始める。
そこでふと、見慣れない物が視界にはいり、足を止めて近づいてみる。
それは透明な丸い物が二つ繋がっており家光はそれを手に取ると空にかざして見た。
「なんじゃこれは・・・・・・・」
空にかざして太陽を覗き込んで見ると、色がついているせいか深い青い色の太陽が透き通って見えるだけで少し目が痛くなった。
「おいおい、餓鬼が勝手に障るんじゃない!!」
突然声がした方を振り向くと、この店の主のようで家光の手を乱暴に掴むと手にしていた物を勢いよく奪い取った。
「無礼者!!何をするのだ!!」
咄嗟に家光はいつものように言い放ち、今はどこからどう見ても普通の子供であることを思い出し
慌てて口を手で塞いだ。
「ああ?どこの餓鬼か知らねぇが、お前が買えるような代物じゃねぇんだ!!よそへ行け!!おら!!」
店の主は勢いよく家光を突き飛ばし、その反動で家光は地面に倒れこむ。
「・・・・・・わっ!!」
倒れこんだ拍子に家光は膝や手を擦りむいたのか少しばかりの痛みを感じる。
ゆっくりと起き上がると、借りた着物は砂まみれになり髪はくずれ今の姿では誰がどこから見てもとても姫とは似付かぬ姿であった。
(このジジイめ・・・後で覚えていろ・・・・)
家光は悔しいのと恥ずかしい気持ちで上半身を起こしたままの状態で両手で砂を握りつぶした。