novel

□Tの標的/幕が上がる
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自分で話し掛けておいて黙っている相棒から目線を外し、机上の金平糖を睨む。現時点で一番怪しいのは瀬崎沙羅だ。以前翔太郎がセイヤについて尋ねた時は酷い動揺っ振りだった。それは翔太郎も把握済みだろう。
ならば何故、彼女を問い詰めようとしないのか。
仮に「彼女を傷付けたくない」という理屈があるにしても、さり気なく聞き出そうとするなり何なり何かしらの手は打つべきだ。しかしその素振りさえ見えない。
それどころか、すっかり居着いてしまった彼女を黙認しているようにも思える。いつものハーフボイルドなのか。はたまた何か策があっての事なのか。
…はっきりしてくれ。


ここ最近、私の日課は来人くん達の探偵事務所でお茶を飲む事になっていた。
所長らしい亜樹子さんは明るい。偶に大きな声で叫んだりスリッパで左さんを叩いたりするから驚くけれど、とても良い人だ。
よく帽子を被っている左さんは多分格好良い。…多分。よくコーヒーを吹き出したり他の人にからかわれていたりするけれど、格好良い人…だと思う。
それから時々来る照井さんは雰囲気が恐いし無表情だけど、偶に奇行に走る。あとコーヒーが美味しい。きっと優しい人だ。何となくそう思う。
こんな人達に囲まれて、来人くんは幸せだろうな…。
『だったら私は要らないわよね?』
煩い。
頭の中で響く声を払い除けて、現実の音を拾う。
「フィリップー、あの黒いフードの奴のこと分かったか?」
拾い上げて取り落とした。
黒いフードを被った色の白い青年。セイヤと名乗り、来人くんの事を知っていた。聞いたのはこれだけだが、思い当たる人間が一人。
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