ハイキュー!!
□梅雨の雨と一本の傘
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「あ、あ、あぁぁ‥‥」
「なんて声だしてんの山口」
「いや、今日雨だなんて聞いてなかったからさ‥」
ザアアっと降り注ぐ雨粒は勢いを緩めることなく、どこか増しているようにも感じられる。
今日は体育館の点検で部活が休みであり、こんな時間に帰れるなんて久しぶりだねツッキー!なんて言いながら鞄をもって月島の元に寄った山口がいつもの如く嬉しそうに喋りながら定位置である月島の隣を歩いていた。
ルンルンと楽しそうに月島にたくさん話しかけて、適度な相槌をもらう、そんなコミュニケーションが山口にとって何より心地よいもので、好きな時間でもある。
だが、今の季節は梅雨前線全快の初夏直前。
いつ雨が降るか分からないこの季節は傘を持っていて損することなどないというのに、
「昨日の帰りに雨が降って、乾かしていたら、」
「忘れたの?」
「う、うん‥‥」
「この時期は不安定だもんね」
「なんてこった!うう、どうしよ、すぐ止むかなあ‥」
下駄箱の前であわあわしている山口を見て、心の中で密かに「かわいいなぁ」と月島は思っていた。
その気持ちが無意識に行動に出たのか、山口の頭をポン、と触れる。
そのまま愛でるように頭を撫でていると、ふいに山口の口から「ツッキー‥?」と不思議そうに感じた山口の声が聞こえてきたため、ハッとなって手を放す。
「僕、傘持ってるから」
「うん、先に帰ってていいよ‥」
「何言ってんの、一緒に帰るよ」
「え?で、でも‥」
「でもじゃない」
「狭くなっちゃうし、男二人で」
「ゴチャゴチャうるさいよ」
そのまま月島はグイッと山口の腕を引っ張って、雨の降る玄関まで連れてから傘を開く。
未だにポカンとしている山口に向けて、空いた傘半分の場所へ誘導するように口を開かずに「ん」とだけ言う。
パアっと顔を晴れさせて駆け寄ると雨に濡れないように、と月島が身を寄せてくれた。
月島が自分のために行ってくれることに、とても喜びを感じて終始ニヤニヤしながら月島の隣を歩く山口。
「ありがとう、ツッキー!」
「うん」
この日から、以前よりも雨の日が好きになりました。