狂犬外伝

□未来人
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どんなに聞かないようにしようとも、そいつは俺に主張する。随分と生命力のある、煩い赤ん坊だと思った。



孫の嫁が精神的に安定せず、妊娠中の鬱をかなり拗らせた状態で出産したのは、誰の目にも明らかだった。医師にかかるにしても、それまでの…孫が亡くなるまでの事実を話して、はたして、ちゃんとした治療が受けられるのか。虚言癖と決めつけられるのがオチな気がして、正直、悟飯に相談を受けた時、迷ったのは確かだ。

悟天と名付けられた赤ん坊の保護と、嫁であるチチの保護。

ブルマに頼むにしても、ブルマはトランクスを一年前に出産しており、悟天の世話まではキツいと判断した。

手が足りないなら人を雇えば良いわ、とブルマは有り余る財力からくる鷹揚さで、任せて!と笑って引き受けたがったが、サイヤ人と地球人のハーフである2人の赤ん坊が揃ったら、どんなとんでもない事をしでかすか、かなりの不安があった。

そして、ブルマの愛情を、トランクスと悟天とで分けてしまうのは、大事な時期の2人にとって、良い事ではないとも思ったのだ。

特に悟天は孫家と「氣」の質が違う。一言で「氣」の質がと違うと簡単に言ってしまうが、それは何もかもが、体質や考え方でさえ違う部分が多いのだ。すれ違い、食い違いの繰り返し。よくある性格の不一致による離婚などの原因は、これにあったりする。

孫、チチ、悟飯、牛魔王を「火」とすれば、悟天は「水」。悟天に対する家族の相性が悪い、と言えばそれまでだろう。

おまけに悟天は、チチの不安定さに影響され、霊的なモノに弱くなってしまっていた。つまり、霊的なモノに抵抗力が弱いのだ。

孫の家にある、色々な霊的な障りを考えると、安全な、神の神殿…つまりここで預かった方が良いのだが…。

俺の思考を読み取ったデンデは、すんなりと、
「人間の赤ちゃんって、どんな感じなんでしょう?」
と笑った。
「ピッコロさん、お預かりしましょう。ボクは今、神の見習いでお世話はあまり出来ませんが、出来ることは手伝いますし、ポポさんもいらっしゃいますから。人間の子育てを、理解するのも神には必要ですよね」

俺は頷き、慌てて神殿から落下するようなスピードで、孫の家に向かった。

グチャグチャな部屋で、微かに異臭までする空間に、チチは泣きながら、泣く悟天を抱きしめていた。

チチの額に手を押し当て、優しく暖かい念を送り込む。チチはボンヤリと俺を見ると、悟天を渡してきた。
泣きすぎて過呼吸のような息をする赤ん坊を、俺はゆっくりと揺すってあやした。
「大丈夫だ」
大丈夫でなくても、孫なら言っただろうセリフ。
「今は休め」
俺は彼女をそのままにして、ポポを呼んで家を片付けさせた。悟飯の生活環境も、整えなければいけない。が、ここはブルマに頼むしか無いだろう。俺は泣き止まない悟天を抱きながら、考えを巡らせていた。



しかし、赤ん坊というのは何て小さくてグニャグニャしているのか…。神になるために、本などを昔、一通り読んだが、知識と実際とは全く違うものだ。

いや、特にサイヤ人は…とつけた方が良いだろうか。

神殿へ連れて行き、精神的に安定するまでは、ともかく悟天は泣くしかなかった。特に俺から離れるのを嫌がった。デンデに抱かせると、ご機嫌な顔から微妙な顔になり、一気に大泣きになり…。ポポに至っては、手が触れただけで大泣きしていた。

オムツかえろ、お腹空いた、憂鬱だ、寒い、暑い、退屈だ…ただ泣く。

だけど赤ん坊の、円らなビーズみたいな目で、一生懸命、こちらを見上げて。そして目が合えば、笑うような表情を見せてくる。それを見てしまえば、全て許せるから困る。

お約束のオムツのとりかえで、顔に尿をかけられた時は、流石に「くそったれ!」と、ボヤいてしまったけれど。

しかし精神的に安定した時からの、悟天の驚く程の成長の早さに、育児書は沈黙した。

「ピッコロさん…何か悟天くん、寝返りうってますよ」

「え!? 1ヶ月半だろう? まだ首だってすわってないはずだ」

「来て見てください」

デンデの声に、俺はある程度冷ましたミルクを手に、悟天の元に急いだ。悟天は俺を見つけると、凄い勢いで、こちらまて転がってくる。

昨日までクッタリと、グニャグニャしていたのに?

「戦闘民族は、成長が早くて、青年期が長いのかもしれん」

なんで抱っこしないの?という顔をして、悟天は、「ピー、ピー、ピー!」と、何やら雄叫びまで上げている。

俺の名前じゃないよな?

「ピー!」

とりあえず、抱き上げてミルクをやる。飲んだらゲップをさせて、あやして眠らせる。



俺の胴着は、ミルク染みとヨダレで、いつも汚れていた。悟天を預かった1ヶ月間のみは。



すっかり、悟天がデンデやポポとうち解けた頃。ハイハイもしないで伝え歩きする、生後2ヶ月の赤ん坊は、俺からの呪いを受けて、元気にチチの元に帰って行った。
 

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