狂犬外伝

□未来人2
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ピッコロさんは全然違う。



元地球の神で、元魔王で、ナメック星人で、現在の神の後見人…肩書きが凄すぎて、想像もつかない感じだけど。

あの人はいつも、会うときは精神的にも、僕の側まで降りて来てくれた。



僕達が使う暦は、エイジというものだ。そのかなり前は第三次世界大戦という戦争があり、混沌とした酷い時代を得て、幾つかの強国を軸に、緩やかな州制を、長い年月をかけて形成した。つまり、地球は一つの国になった。それまでの西暦を捨て、憎しみを捨て、僕達は一つになった。

僕達の全ての教科書の一番最初のページには、初代世界大統領の、『エイジ宣言』が誇らしく載せてある。



僕と悟天へ、ピッコロさんが初めて読み聞かせをしてくれたのは、『銀河鉄道の夜』。作者がボツにした後半をわざわざ探して、何日もかけて読んでくれた。悟天は作中の白い鳥を捕まえて食べたいと言い、僕は後味が悪いというか、妙に座り心地の悪い感覚がして、あの話は正直好きじゃなかった。

紀元前の歴史から、エイジ宣言当時、そして現在。様々な知識や記憶があるピッコロさんは、よく話してくれた。そして、僕達はそれをねだった。

悟天は古代ローマが好きだった。スピキオ・アフリカヌスなんかお気に入りで、カエサルがヒーロー。

僕は、時代としては西暦が好きで。今は存在しない、アメリカという国の禁酒法時代や、ケネディ大統領の暗殺とか、華々しいギャングの話が好きで。

特にお気に入りだったのは、海運王と言われたオナシスの話。

何となく、男ってコレだよね。とか思ったんだ。愛する女を小さな無人島に閉じ込めて、ガードを何重にもして、政府から命を狙われてる彼女を守るんだぜ。毎朝、これも今は無いフランスって国から、焼きたてのフランスパンを、彼女の為にヘリで取り寄せる。

個人の財力で、巨大なアメリカ政府と戦う、そう考えただけで凄いだろう!

ただ、その高揚感もある時を境に変化するしかなかった。



小学校に上がって、真ん中の学年になった。何となく朧気に未来…自分は何になるかと考える事が増えた。

その年齢によくある、野球選手とか、サッカー選手とかね。このハーフサイヤ人の、ありあまる運動神経やパワーでは詰まらないし。

悟飯さんのような学者も、この散漫な性格に合わないし。

祖父やママのような、発明だとかの才能も無い。

ただ、祖父の会社を引き継ぐか、どこか関連企業で働くのかなぁと。

のほほんと責任感も無く、漠然と思っていた。



その日は久し振りに悟天と遊ぼうとして、アイツの家に行ったんだけど。悟天は神の神殿に行って居なかった。ともかく、アイツはピッコロさんが大好きで、いつも何もかも放って神殿に入り浸っていた。

「こんにちは、ピッコロさん。悟天は?」

神殿へなんて、ひとっ飛びな僕は、ものの数分で辿り着いた。

「トランクスくん!!」

走り寄ってくる悟天は汗まみれな胴着を来ていて、ピッコロさんに稽古をつけて貰っていたらしいと分かる。

「トランクスか、久し振りだな」

耳障りの良い、ピッコロさん独特の低音。

「はい、ピッコロさんは元気そうですね」

「お前は鼻が良いのか? これから、お茶でもしようとしていたところだ」

「ヤッタ! ポポさんのサンドイッチ、好きなんだよね」



僕の大人への入り口は、本当にこんな出だしだったんだ。



僕はピッコロさんには、ほとんど武道は手解きを受けた事が無い。それは父であるベジータが、僕を完全に管理して鍛えていた事にあった。

まあ、今思えば、受けてみたかったとも思うけどね。

父の、真っ直ぐ単純なような、でも、どこか臍曲がりな性格が出る攻撃も、かなり意外性があるんだけどね。性格を理解されると、攻撃が読まれやすい。それを上回るパワーがあるから何とかなるけど。でも実戦って、それだけじゃないから。

変幻自在なピッコロさんの技は、誰よりも読むのか難しい気がした。パワーで圧せない分、手数があるんだよね。



「悟天、腹が減ってるのは分かるが、まずは風呂だ」

「一緒に入って、頭洗ってくれるの?」

「甘えるな!」

ピッコロさんと悟天のやり取りは、何となく、過保護なママと甘ったれな息子みたいで、ちょっと可笑しい。



ポポさんの、美味しいお菓子やサンドイッチを食べた後は、短時間の睡眠。

そして勉強。

悟天はカエサルが好きすぎて、『ガリア戦記』を読む事に挑戦しているらしい。

「嘘だろ、悟天。こんな難しいの」

「大丈夫だよ、ボク、読めるんだよ。難しい漢字でもね」

脱力系の笑顔を浮かべて、悟天はあっという間に本の世界に溶け込んで行った。

「悟天は、ああなると二時間は帰って来ないぞ。ああいう所、悟飯の弟だとよく分かる」

ピッコロさんは、そう僕に話しかけると、お前はどうする?という顔をした。

「じゃあ、ケネディ家の事を教えて下さい」

「トランクス。ケネディ暗殺は、どうして行われたか、考えた事があるか? 何故その妻は、母国、しかも夫が大統領を務めたアメリカ政府に狙われ、オナシスに囲われたか、想像出来るか?」

「え!?」

「華々しいドラマもいいだろうが。何がという部分を見つめろ。お前は清濁併せ持つ器があるだろう。いや、そうでなければ困る」

ボクは神殿にある、無限に近い図書室に向かった。



図書室の重々しい木の扉を開けると、中央に、どっしりと黒光りしたシンプルな長方形のテーブル。椅子は3つ。窓など無いのに、明らかに自然光の、昼間のような明るさの元、キラキラと埃が輝いて落下していくのが見えた。石の床には、テーブルの下にだけ複雑な模様を編み込んだ、モスグリーンの毛足の短い絨毯。

テーブルの辺りだけは本当に明るいのに、威圧感さえある数々の綺麗に並んだ本棚は、テーブルから位置が遠くになればなるだけ、暗闇に近くなる。

此処は異空間に存在するのだと、いつも強く感じる。

そう。

多分、この図書室を全部回った事は無いけれど、明らかに神殿の地面面積より8倍は広いだろう。

そして、あと1つ。

この図書室には見えない管理人がいる。

心から感謝して頼めば、彼等はどんな事にも協力してくれるけど、感謝も何も無い奴には何もしてくれない。逆に部屋を真っ暗にして追い出すんだよね。僕は既に1回された事があるけど。

「お願いします。ケネディ暗殺の資料を下さい」

少し考えているかのような間を得て、次々と20冊程の本が飛んできて、テーブルに山が出来た。

「ありがとうございます!」

ボクは椅子をひいて座り、読み始めた。

全部読むまで、毎日神殿に通って1ヶ月半かかった。勿論、何冊か持ち帰り、読破しての日数だ。1つの疑問に、また違う疑問が重なって、それがどう繋がるか分からなくて。結局それも調べる事になる。たまに予想が当たり、全て思うように繋がっていく時と、全く予想がつかない時を繰り返し、僕は益々のめり込んでいった。

分かった事を纏めてみよう。

アイルランド系移民3世のジョセフ(ジョー)・ケネディ(ケネディ大統領の父親)は、表向きは映画興業権などで一財産当てる。が、それは表向きの事。実は禁酒法時代に、密造酒でボロ儲けをしていた。

その頃のアメリカは、警察も何もマフィアが牛耳っていた。ってのは、つまり汚職警官ばかりって事かな?

そして後にシカゴマフィアの大ボスになる、サム・ジアンカーナが、マフィア内で密造酒のまとめ役だった。

つまり、ケネディ家はマフィアとズブズブの関係だった背景がある。

ちなみにサム・ジアンカーナって人は、当時のマフィアの主力だったイタリア系で。アル・カポネのヒットマンしたり、逃走する時の運転したりしてたらしい。

ジョン・ケネディと、ロバート・ケネディ(スゲェなぁ…兄弟だぜ?!)の愛人であり、アメリカ政府の娼婦であった女優のマリリン・モンローを、自殺に見せかけて殺したという話もある。

ジョンが大統領になるまで、サム・ジアンカーナとケネディ家は一応は良い関係で。ケネディ兄弟の選挙の票集めなんかを、サム・ジアンカーナは有り余る金を使ってやっていた。

問題は、ケネディ兄弟はその事を良しとしていなかったって事なんだろうなぁ。

僕は図書室の天井を見つめ、少し想像をしてみる。

何て派手な設定だろう!

大統領兄弟の愛人で、政府の要人の性的接待をする女優!

マフィアの大ボス!

当時のナンバーワン国家である、アメリカ歴代大統領達!

サム・ジアンカーナは、多分、ケネディ兄を大統領にして、アメリカ国家を牛耳りたいと思っていただろう。演説が上手く、ハンサムで大金持ちでスマートで、クリーンなイメージがあったケネディ兄は、担ぐには丁度いいハリボテだと。

でもケネディ兄弟は、ただのハリボテではなかったんだよね。

マフィアシンジケートの転換期は、禁酒法が解除された時だろう。時代を読める者は、素早く波に乗ったんだ。非合法だったものを、法律的に転換する。つまり密造酒を醸造してい所を、会社組織として表にした事。

また、この事で密造酒で得られた利益が目減りするのは確実で、次に目を付けたのは労働組合の乗っ取り。

これで組合費という上がりと、脅せばいくらでも言うことを聞かせられる人々の確保が可能に。つまり、組合に入っている家族まで、選挙の票が動かせる…簡単に言えば、政治方面での発言力は強くなる訳だよね。

そして、この時期から、ハリウッド役者の契約金が跳ね上がる。つまりハリウッドの役者組合が、完全にマフィアに乗っ取られたんだ。それも、ケネディの父親の手によって、だ。

蛇足だけど、この時代のアメリカは、対日本の戦争を太平洋で展開していた。つまり、第二次世界大戦が始まったんだ。
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