Vol.1 「先輩、投げるっスよー!」 山吹色の実が、空中で弧を描いて、レッドの手元に落ちてきた。 「もう、これだけ取れば十分だろ」 マサラタウンの外れにも、木の実のなる木がいくつかある。 トレーニングの休憩中、おやつ代わりにと見つけたゴールドが木に登って行き、取っているところである。 「気を付けて降りて来いよ」 「平気っスよ、大した高さじゃ無いっスから!」 長い葉を避けながら、枝に手をかけて降りて来ようとした時だった。 『ミシミシッ』 「へっ?」 不穏な音が辺りに響いた。 「一体何の音…」 『バキッ』 「!」 「!!」 右手を支えていた枝が重量に耐えきれずに音を立てて折れてしまった。 ゴールドはそのまま下へと落下した。 「(…っ!)」 地面に叩きつけられる恐怖を想定してか、思わず目を瞑ってしまう。 『ドサッ』 「――っ…あれ、痛…くねぇ?」 ゴールドは恐る恐る目を開けてみた。 「…こっちは、腕が痛いし重いんだけど?」 「レ、レッド先輩!?」 そう、ゴールドはレッドの真上に落下したのである。 そして、突然の出来事にモンスターボールを投げる暇も無く、咄嗟の判断でレッドは落ちて来たゴールドを抱きかかえてしまったのである。 「お、降ろして下さいっス!///」 ゴールドは恥ずかしさからか、レッドの腕の中で暴れ出した。 「言われなくても降ろしてやるよ…」 お姫様抱っこ状態のゴールドを降ろしてやると、溜息をついて視線をゴールドへと向けた。 「だから、気を付けて降りろって言っただろ」 「や、でも気を付けろって言ったって…」 「言い訳無用」 「…ごめんなさい」 ゴールドは、渋々素直に謝った。 確かに、事故とはいえ元はと言えば、自分の不注意が原因である。 「よし!ま、ゴールドに怪我がなくて良かったよ」 ゴールドの服についた埃を祓ってやると頭をポンと叩いた。 「ほら、せっかくゴールドが取ってくれたんだから、これ食べようぜ。 今の衝撃でちょっと潰れちゃったけどな」 先程の出来事で手の平から溢れ落ちてしまった木の実を拾うと、ニコリと笑った。 「そうっスね!」 二人は木陰に腰を掛けると、指先に力を入れて木の実の皮を剥いた。 半分に割って種を取り出して口に含むと、陽射しをたっぷりと浴びた果肉の味が口いっぱいに広がる。 「先輩」 「ん?」 「さっきは、ありがとうっスね」 「そんな気にするなよ」 「だから、これは俺からのお礼っス」 「お礼?そんな…ん…」 ゴールドはレッドの唇を自分の唇で悪戯に塞いだ。 ――それは、甘味と渋味が淡く混ざった初夏の出来事。 終。 あとがき 夏の拍手小説その1です。 書いた当初は、ゴールドが照れるシーンを書けて満足したはずなのに、読み返すとなんとも無理矢理感が…(汗) 思わず、書き直したくなる衝動に駆られました(が、結局そのまま掲載)。 ちなみに、山吹色の実はビワの事です。 |