Vol.1 「い、痛ったー!!」 「お前ってホント肌焼け易いのな」 セリカは、赤く熱を帯びたミカドの首筋にボディーローションをピシャリと掛けた。 「だって、あいつら特訓してたらさー…」 「こんな暑い日にか?」 「いい天気だと思って」 「バーカ、いい天気の度を越している」 そういえば、昨日の天気予報で猛暑日だなんだと言っていたような気がしないでもない。 「お前みたいな温室育ちじゃないんだよ」 「…ミカド」 「あ、あはは!冗談だよ冗談!」 セリカにギロリと睨まれると竦んだように後ずさりをした。 「ったく、ほら腕も出せ」 「はーい」 しかし、自分は何故わざわざこんな事をしているのだろう。 別にミカドの事など知った事ではないはずなのに。 「…まぁ、お前らは何をやらかすかわかんないしな」 「セリカなんか言ったー?」 「別に」 この場にいない彼の双子の妹を思い浮かべながらポツリと呟いた。 結局は、あの二人の暴走を最小限に抑える事が自分の役目なのである。 「まぁ、キャップ被ってたから顔はそんなに焼けてないな。日焼け後は大人になるにつれてシミになるんだから、ちゃんと気をつけろよ」 「えー、セリカ、そんなおとなのお姉さんみたいな事言うなよ」 「バーカ、心配してやってんだよ」 「えー、セリカのくせにガラでもない」 「えぇい、人の好意は素直に受け取れっっ!!」 「いっ、痛ぇーーっ!!…なんだよ、セリカのバーカ!鬼!鬼畜!!」 「うるせーっ!耳元で叫ぶな!!」 ああ言えばこう言う、大人しくしてる事なんてただの一度も無い。 それでいて、真面目で大人しそうに見えるからタチが悪い。 改めてそう確信すると、溜息をついた。 「あーでも…まぁ、なんか体がちょっとひんやりしてスッキリしたかも」 「そりゃあんだけかけときゃな」 「へへっ…まぁ、一応サンキューな、セリカ!」 「…お、おう!」 顔を上げたミカドが不意に見せた笑顔が、日に焼けてほんの少し逞しく見えた。 何故だかわからないけど、少し照れ臭い。 「あれ、セリカもなんか顔赤い?」 「き、気のせいだろ!」 「そう?」 「そーだよ…」 自分が顔が赤くなる理由なんて一つもありゃしないだろうと言い聞かせながら、また一つ大きな溜息をついた。 不意に鼻先をローションの薄荷の香りがツンと掠めた。 ――それは、夏を彩る少し危険な香り。 終。 あとがき 夏の拍手小説その1です。 出来ればその2も書きたかったな…(笑) 久々すぎて、何書こうか迷ったものの結局、ミカドとセリカに落ち着きました。 やっぱり、この二人のやり取りが好きな陽向なのでした。 |