短編

□峠のスペシャリストも(拍手4)
2ページ/2ページ

峠のスペシャリストもは、元々慎吾で見た夢を啓介に変換したものです。同じ文面、台詞で慎吾の場合は下記をご覧下さい。
ホントはお蔵入りの話でしたが
あまりに更新遅いのでおまけとしてご覧下さい。




やっととれたGW。
そのせっかくのお休みが。
隣家の親戚の叔父に潰されるとは、夢にも思わなかったわよ!(怒)



両親が転勤で念願の悠々自適生活♪
自炊と中々仕事が忙しくて休みが取れないのが玉に瑕。

でもやっとGW中2日休みをGet!
さてどこにいこうかな〜っ!
と楽しみにしていたのに!


「ごめんね。助かるわ〜。」
「・・・・。」
叔母の宥めるような猫なで声に、無言で私はステアリングをきる。



「ブーッ!」
誰かが唾を吹きだすような音を立てる。
誰だ、うるさい汚い。

「ぎゃははっ!!おま、その格好!」

げっ!

「慎吾!なんであんたがこんなトコにいんのよ!!」

慎吾は、私を指差しながら引き攣れたように笑い続けている。
チキショー。

慎吾に取ったらこんなおかしいことは無いだろうと自分でも自覚はしている。

「S2000に乗ってるお前が田植え機で
田植えかよっ!ぎ、ぎゃははっ、は、腹が痛ぇっ!」
「うるさい!慎吾の乗ってる奴なんかぽんと買えちゃうんだから!
この田植え機!」
見当違いの啖呵を切った私に更に笑い転げる慎吾。

そう、ステアをきったのは田植え機。
麦藁帽に肩にはタオル、長袖のシャツを着ている私はどこから見ても農婦そのものだった。

叔父がギックリ腰で田植えが出来なくなったと叔母に泣きつかれ。
広大な田んぼの手伝いを叔母と私の2人でやる事に。
叔母は田植え機の運転が出来なくて。
あたし、田植え機乗った事無いんだけどとせめてもの抵抗を見せるが
車が運転出来るからと私が運転に回された。
ちなみに、上京中の叔母の息子は来るのが明日になるそうで。
チキショーっ、貴重な私の連休を返しやがれ!(涙)

「はっ、こんな笑える場面なんて滅多にないぜ。」
涙目の慎吾。まだ笑ってやがる。

プチンと自分の中の何かが切れる音がした。
こうなりゃ、自棄だ。
「いい時に来たわね、慎・吾?」
ニターッと笑みを見せるとビビル慎吾。

「な、何だよ。」
「あなた、私に借りが有った筈だよね、それも山程・。」





「くそっ!通りかかるんじゃなかったぜ!」
不貞腐れる慎吾。
「あははは・・っ!よく似合うよ慎吾!」

今度は逆にこっちが笑う番。
慎吾にはあれやこれやで貯まった貸しが山・・とは言わないがかなりの数あった。
慎吾の過去の弱みも沢山知ってるからねぇ(悪魔)。

それを半分に減らす事を条件に田植え機を運転代わって貰うのをお願いして(強請って)、慎吾は私のタオルと帽子を被って田植え機を運転中(大笑)。

叔母は昼ご飯とって来ると来れ幸いと家へ戻っていった。
私は叔母の残していった帽子とタオルを被っている。
5月とは言え、紫外線は強い。

「てめえっ!何時までも笑ってると犯すぞ!!ゴルァッ!」
怒鳴る慎吾の顔は真っ赤に染まっている。
その顔には「不本意だ!」という表情がでかでかと載っていた。

「くくっ!いや、ホント感謝してるよ!
やっぱり持つべき者は友達だね・・ってそこっ!
スピード出しすぎで曲がってる!!ちゃんとスジに合わせて走ってよ!」

「田んぼの状態が悪くって走りにくいんだよ!くそっ!峠でもこんな悪路なんて
ねえよっ!」

「くくっ!そりゃ田んぼだもんね〜っ!」
カシャッ!
曲がって植えた苗の列を背景に慎吾が田植え機を運転している所を携帯で撮った。

「峠のスペシャリストも田んぼでは?」
というタイトルで写メールで毅に送信した。
毅達が爆笑する様が眼に浮かぶようだ(笑)。
「てめっ、今何しやがった!」

田植え機を止めて慌てて走り寄る慎吾。

「ぷぷっ!もう、手遅れだよ!貴重なシーンだから、毅に写メ送っちゃった♪」
悪戯が成功して超得意の私。
さっき、散々笑った罰だよ!


慌てた慎吾の表情がスッと無表情に変わる。
やばい、本当に切れた状態の慎吾だ。

「・・・なんで毅なんだよ。」
「へっ?」
どういう意味か判らなくて問い直そうとした矢先、
唇を噛み付くように塞がれた。
「んぅ!」
離れようとするが、後頭部に手を回され動けない。
何度も唇を塞ぎながら角度を変えて口づけされる。
酸欠状態になり足がガクガクする。

カシャッ!
カシャッ!
「っ・・ふぁ。」
ようやっと離れてくれた唇に思い切り息を吸う私。
ぐったりと慎吾にもたれかかる状態の私に慎吾の満足そうな声が聞こえた。

「・・くくっ、撮れたぜ。」

「は・・・はぁ?」
写メに写っていたのは。

角度を変えて写した2人の濃厚なKissシーン。


「ちょちょっと、何写してんのよ!あ〜っ!」
ピロロ〜ン♪
送信のチャイム。

送ったのは・・・
「ちょ、ちょっとーっ!なんで毅に送ってんのよ。」
涙目の私に

「俺は、お前の事が好きだ。愛してる。誰にも渡さないっ!
たとえ、お前が毅の事を見ていたとしても。
お前に触れるのも抱き締めて良いのも俺だけだ。」

「はぁ?
誰が毅を好きだって??」

「毅と付き合っているんじゃなかったのか?」
誤解と知って呆然とする慎吾。

こいつは今まで私が毅を好きだって誤解してたって事?
どうしよう、告白されてうれしい。

でも・・・。
「オマケに何よ、その告白。」
素直じゃない私。

「TPO考えなさいよ、バカっ!。周りの事も考えてよ。」
言い捨てると慎吾を振り返りもせず田んぼから道路へ急ぎ足で抜け出す。
たぶん、私今顔真っ赤だ。

「えっ、あっ!」
ようやく回りに気が付いた慎吾。

「すげ〜。」
「ええのう〜若いもんは。」
「私らに構わず告白続けられたら良かったのに。」

周りの田んぼのあちこちで夫婦、老人、子供が慎吾を見ていた。

期間はGW真っ只中。
この期間に田植えをする農家は沢山いるのだ。
結構な見物人に囲まれた慎吾は赤面する。

「お前ら、見てんじゃねえよ!おい、返事は!!」
こんな所で言えというのかこの馬鹿はっ!

「知らないっ、慎吾のバカっ!その田んぼと左側の田んぼ後3枚やんなきゃ承知しないからね!」
畝に立って叫ぶ私。
本当は恥ずかしくって家に逃げ帰りたいけどノルマが(泣)

「今、お弁当持ってくるから、出来てなかったら承知しないから!」



真っ赤な、泣きそうな顔で叫ぶ彼女。
肯定も拒絶もしなかった。
これは、脈があると言う事だろうか?
ふわっと肩にしたタオルから甘い香り。
あいつの残り香だろうか。

「誰にも触らせねー。」
こんな所へ置き去りにされたのだ、それなりの返事をしなかったらどうなるか
見てろよ。
長い間の想いがようやくかなえられるかもしれない。
「とりあえず、今夜は寝かさないからな。覚悟しろよ。」
慎吾はその後を思ってほくそ笑んだ。

一刻も早く自分の物にして.

誰も割り込めない程に愛して。

余所見をさせない程縛り付けてやる。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ