中編・短編

□嘘吐きな彼女の精一杯
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「話って何?」


どうしよう……。沙織を目の前にすると、何も言えなくなる。


びしっと、かっこ良く決めるはずだったのに。


……こいつ、すげー嫌そうな顔してる。


昼休み、B棟の屋上に呼び出した。


やること、と言えば1つしかない。


この状況で、“話って何?”って……。


こいつは相当の小悪魔、に違いない。



いや、こいつの場合、そんな可愛らしいものでもないか。
悪魔だ。そうに違いない。


……って、これから告白しようってやつに『悪魔』はないか。












いずれにしろ俺は、これ以上の沈黙には耐えられそうにない。




「いや、別に。
………なぁ、」


「なによ。」



まだ機嫌が悪いらしい。

一体、どうしてこんなにも嫌そうな顔をしてるんだ。
こんなんじゃ告白なんてできないじゃないか。




「どうしてそんなに不機嫌なのさ。
俺、何か悪いことした?」



沙織の表情が、変わった。俺以外のやつらにはわからないくらい、わずかに頬が赤くなる。

俺は、こうやってこいつの表情を変えるのが、ひどく好きだ。
みんな沙織は無表情だの、無愛想だのと言うけど、決してそんなんじゃない。



ただ人より少しだけ感情表現が下手で、人より少しだけ人と関わるのが苦手なだけ。


そして人より少しだけ――…












「だって、古谷に呼び出されてこんなとこまで来るなんて、不本意なんだもの。」



天邪鬼で嘘つきなだけ。








沙織がこう言っているときは、決して嫌なわけではない。
嫌がる顔をして、喜びや期待を隠しているだけ。




声をかけられて顔をしかめるのは、心を開くのが怖いから。




そんな沙織だから、押し付けられた花壇の当番を優しい顔でやっていた姿に惹かれた。
こんな表情もできるんだと、純粋に嬉しかった。



そんな可愛い沙織を、もっと知りたい。

一番近くで見たい。


……そう思うようになったんだ。













「沙織、」


「なによ。」


「好きだよ。」










「な……、ななな、」

慌てすぎ慌てすぎ。



「沙織、」

「――っ…、何で言うのよ…」




え、俺ってそんなに嫌われてんの?
さすがに傷付くって。











そんなことを考えていられたのは一瞬だった。


俺の唇に、不器用にあたったやわらかいもの。
それに気付いて驚いたときには、もうそれは離れていた。

そして続けて沙織が発した言葉。






「あんたなんて、大っ嫌いなんだからっ!!」

…なんて、あまりに嬉しそうな顔で言うから。





「それは、俺を『大好き』だととって良いんだよな?」


抱きしめると、沙織は俺の腕の中で窮屈そうにうなずいた。













嘘吐きな彼女の精一杯
うなずいただけ良しとします。







《end.》





*air of romance*
ぁゃより

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