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□君が泣いている夢を見たから。
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(※『花、時』ヒロイン設定)
「‥はぁ‥。薫、あの酔っ払い馬鹿を叩き起こしておいで」
「はーい」
眩しい太陽の光に、清々しい空気。序でに小鳥も鳴いている。そんないつもの朝を迎えたようで、いつもとは違う朝なのは、いつもはいない来客があったからだろう。
その客は昨夜、夜更け近くにやってきた。
『うーぃ、今帰ったぞー』
『とっ、藤堂さん!?』
『うはー、薫ちゃんただいまー』
『お酒臭っ!』
組の皆と杯を交わしまくり飲み屋を梯子しまくった藤堂さんは、勝手に皆と別れてフラフラとこの店まで来てしまったのだそうだ。
玄関で私を抱き締めながら倒れる藤堂さんを見るや否や お祖母ちゃんが怒れる鉄拳を食らわせたのは丑三つ時の話。
「藤堂さーん? 朝ですよー」
遠慮がちに声をかけるも、聞こえてくるのは規則正しい寝息。全く起きる気配はない。
器用に丸めた布団を抱き締めるような格好でスヤスヤと気持ち良さそうに眠っているのを見たら、思わず笑顔が零れた。
何だか起こすのは可哀想だ。
「うーん‥藤堂さーん」
それでもこのままにしておくともれなく藤堂さんの頭にたんこぶがもう一段重なることになりかねないので。申し訳ないけれど起こすしかない。
「藤堂さん、起きて下さい」
「‥んー‥」
微かに身を捩らせると、藤堂さんは少しだけ瞼を反応させた。
(起きるかな)
「藤堂さん、そろそろ起きないとお祖母ちゃんが‥」
そう言って布団を引き離そうとすると、藤堂さんは布団を抱き締める力を強めた。
「えー‥? 薫ちゃんが言ったんじゃーん‥。私を離さないで〜ってー‥」
「!? いいい言ってません!!」
「またまたぁー」
まだ完全に寝ぼけている。起き上がる気配は全く無くて、思わず泣けてくるのだけれど、にへら、と笑った藤堂さんが不意打ちで可愛く見えて、思わず頬が熱を帯びた。
(って、しっかりしろ私!)
惚れ直してる場合じゃない。惚ける自分を叱咤して、私は再び布団をひっぺがしにかかった。
だって次第に階下から階段を上る足音が聞こえてきてる。
「藤堂さんー! 本当にっお願いですからっ!」
「んー‥」
しょうがないなぁ、とやおら言って ふんわりと微笑むと、藤堂さんは大人しく布団を離した。
ほっと胸をなで下ろしたのも束の間、次の瞬間 何故か私の視界は反転した。
「へっ?」
「そんなに言うなら、離さないであげるー」
まだ酔ってるこの人!!
本当に身の危険が迫っていることもなんのその、藤堂さんはお構いなしに腕に込める力を強めた。振り解けない‥!
足音が部屋の前まで来て、ぴたりと止まった。いよいよ命の灯火消灯五秒前だというのに身動きすら許してくれないこの状況。あぁもうなんか泣けてきた。
「ちょっと藤堂さん本当にお願いですからぁ〜!!」
「泣かないでー‥ずっと‥離さないから‥」
そう甘い声で囁かれれば私の胸は高鳴って──ってだから離して欲しいんだってば!!
私の抵抗も願いも虚しく、無情にも襖がパシリと開かれた。
嗚呼、南無阿弥陀仏‥。
「薫!いつまでかかって‥ん‥」
クシャクシャになった布団。
その上で抱き締められて身動きできない私。
ついでに涙目。
「っ〜〜〜‥っ!?」
誤解が生まれるのなんて簡単な事だった。
「っ死にさらせこんの節操無し!!狼男!!」
君が泣いている夢
を
見たから
(だって夢の中の薫ちゃんは泣いてあんなに素直で‥!!)
(何の話ですかっ!!)
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