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□オープンテラスで君を待つ。
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(※『May you〜』ヒロイン設定/新春)
初めての景色
初めての声
初めての匂い
初めての笑顔
全てが君であって欲しいから
我が儘な僕は
君を独り占めする
時刻はぴったり。場所もぴったり。再度確認すると、悴んだ指先を吐息で温めて、湯たんぽ代わりにサイゾーを抱き締める。
吸い込んだ空気は朝独特の清々しさがして、気分が晴れ晴れとして、自然 心地よさが胸いっぱいに広がった。
そろそろだと思うんだけど。
思って耳を澄ませば、パタパタと聞こえてくる可愛らしい足音。──笑顔が零れた。
「‥‥ひょ!?」
曲がり角を曲がった彼女は素っ頓狂な声をあげた。普段見せない表情に思わず笑いがこみ上げてくる。
「くすくす、おはようございます」
「お、おはようございます‥」
恥ずかしかったのかすっかり赤くなった彼女は、辿々しくも挨拶を返してくれた。
「‥沖田さん、こんな寒い所にずっといらしたんですか?」
「えへへー」
えへへー、じゃないです!と頬を膨らました彼女は、縁側に座る私を手近の部屋へ入れようと腕を引っ張って立たせた。
瞬間、彼女の髪が揺れて、仄かな香りが鼻孔を掠めて、私はなんとなく衝動に駆られて彼女を腕の中に収めてしまった。
「わっ‥沖田さん!」
誰か人が来でもしたら‥と口論しようとする彼女の唇を塞いでしまえば、案の定彼女は真っ赤になって黙ってしまった。
私の方は作戦が成功したことに満足して、胸の奥が温かくなった。
「‥‥新年早々‥」
「新年早々だから、ですよ」
頬を可愛らしく膨らます彼女がポツリと言うと、笑顔でそう返す。
初めての景色
初めての声
初めての匂い
初めての笑顔
全てが君であって欲しかったから
我が儘な私は
君を独り占めする
「‥‥だから寒い中こんな朝早くに待ち伏せしてたんですか」
一層赤くなった彼女は 呆れたように、ともすれば困ったように笑った。──あらあら、照れてる。
なんだか嬉しくなって頬を弛ませていたら──華奢な手で摘まれてしまった。
「でも!こんなに体冷やして! 今日は一日中布団に籠もる刑に処します!」
「えっ!?」
新年早々思わぬ処遇に衝撃を受けていると、ぐいぐいと背中を押されて 自分の部屋へと連れて行かれる。
どうしたものかと背中にいる彼女の方へ顔だけ振り向けば、真っ赤な彼女と目が合う。
少しだけ重なった視線をふいと逸らすと、彼女は尖らせた口でモゴモゴと呟いた。
「‥私が責任をもって付きっきりで看病して差し上げます」
「えっ」
そう言って悪戯っぽく笑う彼女には、今年も敵いそうにない。
オープンテラスで
君を待つ
(私にとっても)
(貴方が今年の“はじめて”)
(になるんですけどね)
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