Title Book

□オープンテラスで君を待つ。
1ページ/1ページ


(※『May you〜』ヒロイン設定/新春)




初めての景色

初めての声

初めての匂い

初めての笑顔


全てが君であって欲しいから

我が儘な僕は
君を独り占めする









 時刻はぴったり。場所もぴったり。再度確認すると、悴んだ指先を吐息で温めて、湯たんぽ代わりにサイゾーを抱き締める。
 吸い込んだ空気は朝独特の清々しさがして、気分が晴れ晴れとして、自然 心地よさが胸いっぱいに広がった。


 そろそろだと思うんだけど。


 思って耳を澄ませば、パタパタと聞こえてくる可愛らしい足音。──笑顔が零れた。


「‥‥ひょ!?」


 曲がり角を曲がった彼女は素っ頓狂な声をあげた。普段見せない表情に思わず笑いがこみ上げてくる。


「くすくす、おはようございます」

「お、おはようございます‥」


 恥ずかしかったのかすっかり赤くなった彼女は、辿々しくも挨拶を返してくれた。


「‥沖田さん、こんな寒い所にずっといらしたんですか?」

「えへへー」


 えへへー、じゃないです!と頬を膨らました彼女は、縁側に座る私を手近の部屋へ入れようと腕を引っ張って立たせた。
 瞬間、彼女の髪が揺れて、仄かな香りが鼻孔を掠めて、私はなんとなく衝動に駆られて彼女を腕の中に収めてしまった。


「わっ‥沖田さん!」


 誰か人が来でもしたら‥と口論しようとする彼女の唇を塞いでしまえば、案の定彼女は真っ赤になって黙ってしまった。

 私の方は作戦が成功したことに満足して、胸の奥が温かくなった。



「‥‥新年早々‥」

「新年早々だから、ですよ」


 頬を可愛らしく膨らます彼女がポツリと言うと、笑顔でそう返す。



初めての景色

初めての声

初めての匂い

初めての笑顔


全てが君であって欲しかったから

我が儘な私は
君を独り占めする




「‥‥だから寒い中こんな朝早くに待ち伏せしてたんですか」


 一層赤くなった彼女は 呆れたように、ともすれば困ったように笑った。──あらあら、照れてる。
 なんだか嬉しくなって頬を弛ませていたら──華奢な手で摘まれてしまった。


「でも!こんなに体冷やして! 今日は一日中布団に籠もる刑に処します!」

「えっ!?」


 新年早々思わぬ処遇に衝撃を受けていると、ぐいぐいと背中を押されて 自分の部屋へと連れて行かれる。

 どうしたものかと背中にいる彼女の方へ顔だけ振り向けば、真っ赤な彼女と目が合う。

 少しだけ重なった視線をふいと逸らすと、彼女は尖らせた口でモゴモゴと呟いた。


「‥私が責任をもって付きっきりで看病して差し上げます」

「えっ」



 そう言って悪戯っぽく笑う彼女には、今年も敵いそうにない。









オープンテラスで
君を待つ


(私にとっても)
(貴方が今年の“はじめて”)
(になるんですけどね)


.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ