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□紙一重の後光。
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(※『It'll』ヒロイン設定/函館)




「もう、弱者は死に去り、猛者が生き残るような時代は去ったんだ」


 貴方は無表情で──でもそれはどこか悲しげで、それを隠すかのように真摯な瞳で──静かに言った。








紙一重の後光








「でも、貴方は生きるわ」


 彼が目で追っていた光景を遮るかのように立ち、真っ直ぐに見つめた。
 背中で感じる爆音と銃声が、痛みを伴ってこの身を貫く。──そして彼はきっと、この痛みをこれまでずっとその身一身で抱え込んできた。


「土方さん。私が」


 私が貴方を守るから。

 皆まで言うといつも貴方は苦しげに眉を顰めるから、私はその後に続く言葉を飲み込む。貴方を苦しめたくなんかない。

 だから私は、自分に課した使命を貴方に教えない。


「──確かに時代は変わったわ。個の力ではなく、武力の差が決する時代になった」


 そしてそれによって貴方は貴方の存在意義を見失いかけていることも分かっている。けれど、


「でも、貴方は私に言った。『お前はお前で、俺は俺だ』って」


 静かに眼下に広がる光景にやっていた視線を私に移すと、貴方は軽く息を吸った。そして次の瞬間 貴方の口が開くのを遮って私は言葉を繋げる。


「貴方は光なの」


 言うと、貴方は軽く目を見開いた。


「光なんだよ」



 過去を捨てられない侍たちを世界から零れないようにすくいあげているのは貴方だ。
 そして変わり行く時代に彼らを正しく導けるのも、きっと貴方だ。

 だから私は、あの使命を自分に課した。

 貴方は、皆の光だから。


「土方さん。いきましょう」


 揺るぎない光ではない。迷い、悩み、時折揺らぐ光だからこそ。人間らしい光だからこそ、貴方は。


「──弁天台場へ」


 強いモノが生き残り、弱いモノは消え行く時代でも、皆の光になれる。

 そんな未来を、託したいのです。

 だから私は、貴方の影になる、覚悟を決めた。








紙一重の後光

(光を生み出すには)
(影が必要でしょう?)


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