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□一番星になりたい。
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(※ヒロイン→←沖田)
ねぇ、知ってる?
貴方が微笑む度
何人もの人が
心を奪われているってこと
そして、知ってる?
それを自分だけに向けて欲しいと
思っている私がいるってこと
気づいてくれるかな
門が開くと、揃いの羽織を羽織った数人の志士たちが隊を成して歩きだしてくる。
そしてそれを知っている幾人かの女の子たちが、それを待ち伏せる。
「沖田はん、この文受け取っておくれやす」
「あぁ、私が先どす‥!」
先頭を歩いていた青年に、華やかな装いをしたうら若き乙女たちが群がっていく。──いつもの光景だ。
「ごめんなさい、これから隊務なので」
そう言ってやんわりと断って、“沖田さん”は歩調を速めようとする。けれど、女の子たちは一向に引き下がろうとしない。
「あぁ、待っておくれやす」
そう言って一人の女の子が袖を引いて引き止めようとした瞬間──反対側にもう一人のコが回り込んだ。
(あ、)
やったな、と思った。声をかけて気を逸らした隙に、さり気なく沖田さんの懐に文を忍ばせたのだ。
「隊務ですので」
それに気付いているのかいないのか(気付いていないはずはないけれど)、沖田さんはにっこりと笑みを零すと今度こそ彼女たちを振り切って行った。
その笑顔が彼女たちの抗議を塞ぐ威力を持っていることは知っているのだろうか。
羽織を翻して颯爽と歩く後ろ姿が、嫌みなほど格好良かった。
そんな一連の光景を遠目に見ていた私は、ふんっと鼻を鳴らして未だに沖田さんの笑顔の余韻に浸っている彼女たちに背を向けた。
(何よ、何も分かってないくせに)
もう一度、艶やかな着物を着ている女の子たちに一瞥をくれてから自分の着物に視線を落とす。
(沖田さんは派手な朱色より桜餅の桜色が好きなのよ)
そして去り際に彼女たちが振りまいていった香の香りをわざとらしく手で振り払う。
(沖田さんは梅より金木犀の香りが好きなんだから)
頭の中でそう非難して、募る苛々が頂点に達しようとした時──急激に虚しさが胸いっぱいに広がった。
(‥でも、きちんと思いを伝えるだけ彼女たちは前向きだわ)
一歩先行しているつもりになって、いつまで経っても進歩しない自分自身に嫌気が差した。
‐‐‐‐‐
「ごめんください」
小さい子どもで賑わっていた店内に、少し低めのよく通る青年の声が響いた。
いつも通りの時間帯。面を確認するまでもない。
「いらっしゃいませ、沖田さん」
子どもたちに合わせていた目線を上げてゆっくり笑えば、沖田さんは私の何倍も綺麗な笑顔を返してくれた。
「今日は何にしましょうか? ──柏?桜?それとも干菓子を出しましょか?」
相手をしていた子どもに金平糖を握らせて、そっと背中を押して外に待つ母親の元へ行かせれば、沖田さんは一層笑みを浮かべた。
「──今日は金平糖にします」
「金平糖ですか?」
「えぇ」
蓄えが無くなってしまったもので。と言って子どもっぽく笑う。──その笑顔に思わず目眩がしそうになった。
(いけない、いけない)
「わかりました。今包みましょうね」
お仕事中に格好悪い姿なんて見せられない。そう気を引き締めて、私は出来るだけテキパキと包装に取りかかる。
すぐ出来ますよ、と言って笑みを浮かべると、何故か沖田さんからの返事はなかった。その代わり何となく空気が和らいで、笑ったのかな、と顔を上げなくてもわかった。
そして僅かに流れた沈黙を破って、沖田さんが口を開いた。
「貴女って、金平糖みたいな人ですよね」
突然言われた言葉の意味が解せなくて、沖田さんの方を見やると──沖田さんは顔を赤く染めていた。
「あ、いや‥、違うんです‥!」
「え?」
「ご、ごめんなさい、お釣りはいいです‥っ!」
疑問を返す間も無く、そんな隙を与えず、沖田さんは銭だけ置いて、慌てて店から出て行ってしまった。何が何だかわからなくてポカンと口を開けた私は、暫く呆けた後、手元に残った金平糖とにらめっこした。
「金平糖‥?」
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