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□星を辿る。
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(沖田さん視点)
色とりどりで
キラキラして
小さくて
可愛らしい
金平糖のようだと
逆上せた頭で思った
「さて、今日もお勤めと参りましょうか」
いつも通りの時刻に、いつも通りの面々と門の前に集まって、声を掛ける。今日も巡回の時間だ。
ギィ‥という音がして門が開く。意気込んで一歩を踏み出す──けれど、“いつもの障害”が前に立ちふさがる。
「沖田はん、この文受け取っておくれやす」
「あぁ、うちが先どす‥!」
踏み出した一歩がそのまま止まって、目にも鮮やかな着物を纏った女の子たちが周りに集まってくる。差し出された文に、私は一瞬たじろいだ。
「ごめんなさい、隊務なので」
原田さん曰わく、この女の子たちの積極的な接触は男として喜ぶべきことで、受け入れてあげるのが作法だということだけれど。
(そんな気持ちにもならない‥)
悪いなと思いながらも、やんわりと断って歩調を速め横をすり抜けようとしたとき──
「あぁ、待っておくれやす」
クンっと袖を引かれて引き止められた。──そしてその隙に反対側へ回り込んだ一人が、私の懐に文を忍ばせた。
(──‥困ったなぁ)
突然そんな動きをされると、“反射的”に“動いて”しまいそうになるから気をつけて欲しい。刀の束に手をかけてしまうのを抑えるのに必死な気持ち半分、応えてあげられないことに対する罪悪感半分で、私は彼女の行為に気付かないフリをした。
「隊務ですので」
冷たくあしらうよりも笑顔で対応した方が言うことを聞いてくれるということに最近気付いた私は、僅かばかりの笑顔を振り撒いた。そして言って、今度こそ歩調を速めた。
すり抜けていくと、彼女たちの不快ではないけれど強い香から解放されるのを感じた。
(嫌いではないのだけど‥)
彼女たちの美容に対する努力は本当に素晴らしいと思うし、綺麗だなと思う気持ちもある。けれど──
(私が好きなのは鮮やかな色よりも──)
思って、ふと視線を横にやると、少し離れた垣根の隅で何かが動くのを見た。そして微かに覗いているのは──桜色の着物。
ふっと先程とは違う柔らかな笑みが自然と零れて──胸の奥が温かくなるのを感じた。
(──一先ず隊務だ)
気を引き締めて──表情を引き締めて、だんだらの羽織を翻し肩で風を切った。
隊務を果たし、一同帰還する──その前に、私はいつも寄り道をする。
それは小さな菓子屋。それはささやかな、でも温かな心の安らぐ場所。
「坊、お遣いで来たの?偉いねぇ」
そっと暖簾の隙間から中を覗けば、見えてくる可愛らしい空間。控え目で、それでも色とりどりな菓子たちが並ぶ中一際映える桜色の着物を纏った女の子。
子どもと目線を合わせて柔らかく笑む。その姿を見ていると、自然、笑みが零れた。
「坊は幾つになったんだっけ?」
「よっつ!」
自慢気に指で“四”を示してみせる坊やに、彼女は驚いた表情を見せてから、手を叩いて喜んでみせる。
「すごいねぇ! じゃあ大きくなった坊にオマケ付けちゃおう」
そう言ってにっこりと笑うと、彼女は前掛けの袋に手を入れ 何かを探るようにしてから、取り出したものを坊やに差し出した。
「──わぁ!こんぺーとーだ!」
子どもがその小さな手で受け取った小さな包みを開くと、入っていたのは少しばかりの金平糖だった。
喜ぶ坊やを見て、彼女は満面の笑みを浮かべる。そして唇の前に人差し指を立てると、「店主には内緒だよ」と言って悪戯っぽく片目を瞑った。
そして私は──弾かれるように暖簾をくぐった。
「──ごめんください」
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