シンアスのお話

□残っているモノ
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「ちょっと。……かなり気持ち悪いんですけど」
――あれ?
 気が付けば同僚が、酷く気色の悪いモノを見るような目でこちらを窺がっていた。
「あ、シン。いいわね、なにも言わないで。あんたのそのスケベそうな顔見てれば、何を考えてたかなんて聞かなくたってわかるんだから」

――――……言い返せない。何も言い返せない。

「そ・れ・で? どーみても幸せ絶頂って感じでしたけど、なーにがご不満なのかしら〜?」
 もはや真面目に聞く気もないのか、テーブルに肘を付いて明後日の方向を向いている。
「い、いや、でも違ったんだって!」
 話す気なんてなかったことも忘れ、なんとなく慌てて身を乗り出した。
「だからな〜にが違うっていうのよ? あの人がカラダだけなんて関係、しかもあんたなんかに結ぶわけないでしょ」
 カラダだけならもっといくらでもいい人がいるわよ、と肩を竦めながら小バカにするような視線を向けてくる。
「う、うるさいな! そうとしか思えなかったんだから仕方ないだろッ」
 反抗心が先に立ち、すぐさま吠えてしまうものの。たしかに身体だけなら自分である必要は何一つないと納得してしまう自分がいた。
「その……でも……全然、恋人っぽくならないんだよ。 あれ以来、妙によそよそしいっていうか、困ってる感じがするし……」
 それでも、ならばなぜ結ばれてから態度が変わらない……いや変わって良くなるなら万々歳なのに微妙に悪い方向へと変わってしまったのか。それがとにかく解せない。
「だいたい、終わって最初に言った言葉が『はぁ、疲れた』だったんだぞ!? 初めて結ばれて感無量ってところで言うか、そんなこと!?」
「――――〜……っ…」
 聞きたくない、聞かせないでとばかりに悶え苦しむ同僚に、容赦なく詰め寄る。
 自分から進んでここまで首を突っ込んだのだから、責任は取るべきだ。
「それにオレ、考えてみたら結局今まで好きだって言葉を向こうから自主的に言われたこと、ないんだよな。付き合うって言われたわけでもないし。これってもしかしなくてもまだ恋人じゃないってことなんじゃないのか…!?」
 ずっと思い悩んでいたことを吐露して悶々と唸りはじめると、やっと立ち直ったのか慣れたのか、同僚が胡乱な眼差しを向けてきた。

「……それ、あんたの押しに負けてしぶしぶ許してあげたけど、終わってみたらあまりにヘタで疲れちゃったってことだったりして」





――――……




頭が、真っ白になった。








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