シンアスのお話
□残っているモノ
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知らなかった盾
「……ん…」
憧れてた正義
「…ン、……待っ…」
めぐり逢えた剣
「ぁ…ッ……ん…ん…っ…」
すれ違った無限の正義
「――…ん…ぁあ…っシン…!」
分かり合えた生身の身体
「……ッ!!…――」
――そして
「…………はぁ。 疲れた……」
って、おい。
●残っているモノ●
「まだ心が残ってたのかよ……」
「はぁ?」
今なお履いている白いブーツはもうすっかり足に馴染んでいて、普段は歩く音を軽快に響かせる。
しかし今は、のろのろとした歩みに加え、溜息まで交じらせていた。
考えていたことを思わず零してしまったのだが、その呟きを隣に並んでいた同僚は耳聡く聞き取ったらしい。こちらに視線を向けてくる。
そこに覗く怪訝そうな顔は物語っていた。「意味がわからない」と。
「なんの話?」
「う…」
訝しそうに問われても、聞かせたかったことではなかったため言葉に詰る。
だが、聞かれてしまったのだから仕方がない。微妙に視線を彷徨わせながらも言葉を探していった。
「……いや、なんかさ…… もうぜんぶ手に入れたと思ってたのに、肝心なとこが抜けてたみたいなんだよな……」
ここ最近、ずっと抱えてきた疑問に関する自分なりの答えというものを、なんとか零す。
「えぇ? ……だから、なんのことよ」
それでもやはり伝わらなかったのか、少し呆れたように再度同じ質問を繰り返された。
「―――……アスラン」
首を傾げて問いかけられた質問に答えたその名は、目下悩まされ続けている自身の想い人の名だった。
「え、付き合ってたんじゃなかったの!?」
詳細に話す気などさらさらなかったものの、放っておけないとのありがた迷惑によって強引に引っ張られ、会議の後にラウンジの隅へと連れ去られた。
だが、向かい合わせに座らされたその目の前にある人物の瞳は、明らかに輝いている。
「……ずいぶんと楽しそうだな」
危惧したとおり興味津々で面白がる同僚に、なぜ愚痴まがいのことを零してしまったのかと今更ながらの後悔が押し寄せた。
結果、大いに損なわれた機嫌のままに顔を逸らし、不遜に目を閉じて返答の意思がないことを示す。
が、同僚はこちらの心情などあまり気にしていないのか、勝手に話を進めていった。
「だってアンタ、あれだけ嬉しそうに言ってたじゃない。告白したとかデートしたとか、手を繋げたとかキスできたとか、挙句の果てにお泊りさせてもらえたとか合鍵貰えたとか…そりゃもう惚気話ばーっかり」
「……」
「なのに、何で?」
以前、自分が嬉々として報告していたことを思い出したのか、半ば呆れたように肩を竦められる。
だが、だからこそわからないと身を乗り出され、問い詰めるように顔を近づけられれば、報告していた手前、無視し続けるのも気が引ける。
「……何か、違ったみたいなんだよな」
呟きと共に幾分か心情を和らげさせ、視線の先を天井へと移す。
そうして先ほど指摘されたこれまでの進展を、ゆっくりと思い出してみた。