シンアスのお話

□手に入れたモノ
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俺は
いつも必要とされない


特別な意味で
必要とはされない



みんなそれぞれ特別な何かを見つけるのに

それはいつだって俺ではない


俺は
特別になりたかった




でも、そうじゃなかった

誰かの特別になれたとき、初めて知った

特別なら、それでいいわけじゃないことを


自分にとって特別なヒトの特別になれることが
どれだけ幸せで
どれだけ代え難いものなのかを








 見上げたオーブの空は、相変わらず青く澄みきっていた。
 この空の先に、シンがいる。
「……ハァ」
 この分ではとても書類整理なんて、はかどらない。
 幸い、急ぎのことでもなければ、昼も近い時間だ。
 資料室へと向けていた進路を、与えられている部屋へと変えることにした。


 寝台へと腰を落ち着けながら、息を吐く。
 ここ数日、気づけば溜息ばかり零していた。
 それは自分でもわかっていること。
 自覚があってもなお、零れてしまうのだから仕方がない。
「ハァ……」
 だが、空を見上げただけで思考がそちらへ向かうのは、いささか行き過ぎていた。
 自分の浮かれ具合に嫌気がさす。
 思わず手で、顔を覆った。
 なにもかも隠すように。
 そのまま仰向けに倒れた自分の背中を、程良いスプリングが受け止めてくれる。
 ……あのときは、もっと深く沈んでいた。
 二人分の重みが、かかっていたから。
「――――〜……ッ」
 なんでこうもそちらにばかり考えが移行してしまうんだ。
 堪らず身体を横に向け、頭を抱える。
 ここ数日というもの、気がつけば恋人のことを思い出していた。
 特にこうして横になってしまうと、あのときの感触や息遣いや恥ずかしいあれやこれが鮮明に駆け巡っていく。
 今のところ、お互いが忙しくなってきたため顔を合わせずに済んではいた。
 現状では通信も顔が赤くなりそうで、できない。
「そういえば、あれから話せていないな」
 向こうから通信は入っているものの、忙しさ半分と恥ずかしさ半分で、応えずにメールで済ませている。
「拗ねていないといいが……」
 シンはあらゆる意味で素直だ。
 好き嫌いをハッキリとぶつけてくる。


 だから、拗ねていれば拗ねていると、わかりやすい態度で示してくれるだろう。
 鈍いと言われる俺にでも、よくわかるように。
「……ダメだな、つい考えてしまう」
 心や気持ちに嘘をつかない。
 そこが好きなのだと改めて思う今の自分の頬は、にやけている自覚があった。
 いっそとことん考えてしまえ。
 そう思って本格的に目を瞑り、寝台へと身体を預けると、心地よいまどろみに沈みこんでいった。





 自分にも他人にも、偽ったりはしないシン。
 良くも悪くも、今持つ感情をまっすぐ見つめている。
 そのことで傷ついたことが幾度もあったはずなのに、今なお変わらないそれが、とても嬉しかった。
 シンはいつだって全身で好きだと伝えてくれる。
 欲しかったものが、ここにあるのだと教えてくれる。
 だからこそ、思う。

 もう手放せない。
 
 なかった頃には、戻れない。




 だが、夢を見たのだ。

 自ら求め、ねだり、腰を振る夢を。
 シンという存在、すべてを欲しがる夢を。



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