シンアスのお話

□Alex and Rite
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「デートがしたいです」

 いくら恋人同士だからって限度がある。やっと気づいた。
 二人っきりになれる時間イコール二人っきりでベッドの上、なんてある意味で幸せなことだけどともすればセフレだ。
「……え? ……あ、俺と……か?」
 なのになんでアンタはそんなに歯切れが悪いんだ。
「……ほかに誰がいるってんですか」
 てっきり喜んでもらえたり照れくさそうに笑ってくれたりするものだと思っていたから目をみはってしまう。
 デートっていったら普通、恋人とするもんなんじゃねーの?
「い、いや…… ……すまない、外にデートへ行くなんて考えたことがなかったからつい」
――まさかホントにセフレなのかよ。
 さすがにお互い恋人だと認識している自覚はあった。本気でそんな心配してたわけじゃない。なのに、マジで?
「えっと……どこか行きたい場所でもあるのか?」
「……。 目的がなきゃダメなんですか!?」
「そ、そんなことはないが……」
 ちょっと考えたあと、ハッとなって吠える。
 そりゃデートプランなんて考える前に思いつくまま口走ったけど。でもだからって保護者に付き添い頼んでるわけじゃない!
「で、でもほら、目的が特にないのなら部屋でゆっくりしているだけでも充分…」
「アンタはもやしっ子か!!」
 歯切れ悪く食い下がってくるのはなんでだ!? なんでこんなに渋られなきゃいけない!?
 別にいつもどおり部屋でしっぽりもイイに決まってるけど、だんだん意地でも行きたくなってくる。
「……オレと出かけんのがそんなにイヤなんですか?」
 っていうか、予想外だ。外で健全に過ごすより部屋でしっぽりがいいなんて。
「わ、わかった。わかったから…… ――――いろいろ準備してくるから待ってろ」
 アスランさんはオレの睨みに仕方なさそうに肩を落とした。なんで恋人にデートしたいって言っただけでケンカ越しにならなきゃならないんだ。こっちが落ち込みたい。
「最初っから素直にそう言ってればいいんですよ」
「……知らないからな。面倒なことになっても」




――予想外だ。
 外に出たがらない理由とやらがわかってしまった。
 いや、理解はできない。なんでこんなことに繋がるのかは未だよくわからない。
 でもその理由のせいでオレがすでに帰りたいのは事実だ。
「シン。もう一度いうが、外での俺はアレックスだ。わかったな」
「……」
 なぜか今、物陰に二人で辺りを警戒するようひっそりと身を寄せ合いながら大通りに出るタイミングを見計らっている。オレはラフな格好で、アスランさんは出逢った頃のあの格好だ。
 そもそも、ちょっと出かけるだけなのにわざわざ準備してくるなんて言ってた時点でどこかおかしかったんだ。男の準備なんてたかが知れてるもんなのにいろいろってなにをだ。
 初デートだから気合入れてくるっていうなら嬉しいけど。
「ラクスと違って俺はあまり顔を知られてはいないはずだが……それでも名前が出てしまえば隠せない。いいな、いつものように間違ってもアス…なんて呼ぶなよ」
 明らかにデートとして気合を入れる方向性が間違っている。なんでこんなに警戒しなくちゃならないんだ。っていうかずっと気になってたんだけどアレックス・ディノってなんだよ。恐竜かよ。
「……なんでアンタだってバレたらいけないんですか」
 この人が有名なのはたしかだし、いろいろあるんだろうな、とは思う。でもただちょっとデートするだけにここまでする必要があるんだろうか。
「……それは……」
 オレがもっと有名人でその護衛のため、とかなら人目を避けて辺りを窺ってるのもわからないでもないけど、あいにくそれはない。
「……うん……と……」
 まったくにもって歯切れが悪い。悪すぎる。
 無言で睨みつけたら仕方なく口を開いたけど、さっさと言えと怒鳴りたい。
「……ラクスに言われているから、だ」
「は?」


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