シンアスのお話

□恋愛未満
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 目を奪われる。
 漆黒が流れるその美しさに。
 そして惹かれる。
 軽やかに風を切る姿に。

 それはきっと──
 いつからか求め続けているシルエットと、重なったから。









「あー疲れた…」
 シンは自分の肩に手をやった。
 コリをほぐすように、揉みながら歩く。
「ったく、雑用なんて押し付けやがって」
 時刻は夕暮れ。
 夏に近づいているせいか、まだまだ空は明るい。
 だが、授業はとっくに終わっていた。

 ――あれ?

 いつもどおりの帰り道。
 部活が終わって帰るには、まだ少し早いのか、人影はまばらだ。

 なのに、笑い声が聞こえた気がする。
 それも、良く知っている声。

 思わず辺りを見回す。
 木々、と、土。
 特になにも見当たらない。
 ――でも、気配はある。

 シンは、そっと、植え込みに近づいた。
 そこに見えたのは。

「ははっ…くすぐったいよ」

(アスランさん、と…犬?)
 芝生の上で、中型くらいの細身で黒い犬が、座り込んだアスランにじゃれついている。
 ――はじめて見た。
 楽しそうな顔。
 いつだって眉間にシワを寄せ、怒っているか呆れているか、澄ました顔をしているのに。

 シンは、無意識のうちに見惚れていた。
 いつのまにか、植え込みの陰でしゃがみ込み、こっそりとアスランたちを覗いている。
(な、なんか見ちゃいけないものでも見たみたいだ)
 妙にドキドキする。
 高揚感とでもいうのだろうか。
 毎年、夏になると家族で行っていた親戚の家で、初めて屋根裏部屋を見つけたときのような――。

 ――帰ろう。うん。
 慌ててすべてから顔を逸らし、シンは茂みから離れて、踵を返そうとする。

 が。

「シンは可愛いな」

 ――思わず足が止まった。
 というか、動きのすべてが止まった。
(誰が、可愛いだって?)




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