シンアスのお話
□恋愛未満
1ページ/4ページ
目を奪われる。
漆黒が流れるその美しさに。
そして惹かれる。
軽やかに風を切る姿に。
それはきっと──
いつからか求め続けているシルエットと、重なったから。
「あー疲れた…」
シンは自分の肩に手をやった。
コリをほぐすように、揉みながら歩く。
「ったく、雑用なんて押し付けやがって」
時刻は夕暮れ。
夏に近づいているせいか、まだまだ空は明るい。
だが、授業はとっくに終わっていた。
――あれ?
いつもどおりの帰り道。
部活が終わって帰るには、まだ少し早いのか、人影はまばらだ。
なのに、笑い声が聞こえた気がする。
それも、良く知っている声。
思わず辺りを見回す。
木々、と、土。
特になにも見当たらない。
――でも、気配はある。
シンは、そっと、植え込みに近づいた。
そこに見えたのは。
「ははっ…くすぐったいよ」
(アスランさん、と…犬?)
芝生の上で、中型くらいの細身で黒い犬が、座り込んだアスランにじゃれついている。
――はじめて見た。
楽しそうな顔。
いつだって眉間にシワを寄せ、怒っているか呆れているか、澄ました顔をしているのに。
シンは、無意識のうちに見惚れていた。
いつのまにか、植え込みの陰でしゃがみ込み、こっそりとアスランたちを覗いている。
(な、なんか見ちゃいけないものでも見たみたいだ)
妙にドキドキする。
高揚感とでもいうのだろうか。
毎年、夏になると家族で行っていた親戚の家で、初めて屋根裏部屋を見つけたときのような――。
――帰ろう。うん。
慌ててすべてから顔を逸らし、シンは茂みから離れて、踵を返そうとする。
が。
「シンは可愛いな」
――思わず足が止まった。
というか、動きのすべてが止まった。
(誰が、可愛いだって?)