シンアスのお話

□シンの誕生日
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……前にもこんなことがあった気がする。
――ぴこぴこぴこ。

新作ゲームを買って帰った後だ。
――ぴこぴこちゅどーん。

シンは部屋に来ている俺なんて、眼中になかった。
――ぴろぴろりーん。

ただひたすら、ゲームに夢中なのだ。


「はぁ……」
また溜息が零れる。
自業自得と言えばそれまでなのだが。

「シン」
「……」
――ちゅどんちゅどーん。

俺はシンの膝の上に頭を預けながら、床に寝転がっていた。
床とのあいだにはクッションをはさんでいるため、痛くもなく快適そのもの。

「……シン」
「……」
――ぴろーん。ぴこ。

ただし、肝心の恋人が一切目を向けないことが、不愉快そのもの。
――ちゅどどーん。しゃきん!

「……プレゼントなんてやらなければよかった」
小さく呟く。
寝転んだ先に見えるテレビ画面を見つめて、眉を寄せた。


今日はシンの誕生日。
本当なら、一番喜んでくれると思っていた自分自身が、恒例のプレゼントだった。

だが、それだけでは味気ない。
いままでは、プラスアルファで手作りの工作物や手料理をあげていた。
今年は何にしようか。
悩んでいたとき、小さな玩具屋に少しだけ置いてあったゲーム陳列棚で、シンが欲しい欲しいと何度も口にしていたゲームを見つけてしまった。
新規参入の会社が出したため、初回生産数がとても少なかったらしい。
ネットで大きく話題になり、再販待ちの予約すら受け付けていない状況なのだと、切々と語っていた。
よくわからないが、シンがとても欲しがっていたことだけは確かだ。

俺は迷わず、そのゲームソフトを買ったのだった。


「……想像はできたことなんだがな」
そのゲームを贈った後、どうなるかということくらい。

シンは予想どおり、喜んだ。
予想以上に、喜んだ。
見たことがないほど嬉しそうな顔に、一瞬俺も喜んだ。

が、俺の喜びなんてそれこそ一瞬だけ。
シンは即座にパッケージを開いてソフトを取り出すと、用意していたケーキもそっちのけでプレイし始めたのだ。

現在、俺が放置されている時間はゲーム開始時間と同じだから3時間。
ケーキはゲームをプレイしながら食べてもらえたので、放っておかれているのは俺だけとなる。

思わず、床に置かれたケーキの残骸が載る皿を見つめた。
「……」
お前はいいよ。食べてもらえたんだから。

そんなものにすら、嫉妬してしまう自分が惨めだ。
再びテレビ画面を睨みつけ、シンの視線を一身に受けるそれを妬んだ。
「……ふんっ」
睨むのも嫌になり、身体を反転させる。
腿の上で頭を転がせると、シンはくすぐったそうに脚を捩って、軽く頭を撫でてきた。






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