至宝のシンアス
□恋人の手
1ページ/1ページ
*恋人の手*
アスランは、大学で専攻している機械工学の論文を書く手を、休めた。機械いじりなら、何時間やっても苦にならないが、論文を書くのは疲れる。
「どうぞ」
シンは、コーヒーを机の上に置いた。
「ありがとう。まだ時間がかかりそうだから、今日は先に寝てくれ」
「わかりました」
「あ、待って、シン」
アスランは、シンの腕をつかんで、引きとめた。すっと手を移動させて、シンの手を握る。
痛くない程度に、ぎゅ〜っと、力をこめた。
「アスランさん……?」
長すぎる握手に、シンは戸惑う。
「充電完了」
手を離して、アスランは言い、花がほころぶように、ふわりと笑みを浮かべた。
「充電?」
「これでまた頑張れるよ、ありがとう」
シンの手に触れるだけで、不思議なくらい、疲れが取れる。元気になれる。
シンは、恋人のかわいさに、苦笑した。論文を書く邪魔をしてしまいたくなる。抱き上げて、ベッドに連れて行ってしまいたい。でも、我慢。
シンは独り、ベッドで眠った。
早朝、シンは目を覚ました。横にはアスランがいた。悪い夢を見ているのか、うなっている。怯えたように寄せられた眉。
「アスランさん」
起こした方が、いいだろうか。
「……う……助けて、シン……」
夢の中で、助けを求めている。
シンは、アスランの体を揺さぶった。アスランは起きない。
シンは、アスランの手を、ぎゅっと握った。
自分の手に、悪夢を変える力があればいいと思った。
アスランの表情が、穏やかなものになっていく。安らかな寝息。
シンは、ほっとした。手を握ったまま、アスランの眠りを見守った。
ぴくりと、まぶたが動く。アスランが、目を覚ました。
「おはようございます」
声をかけたシンを、アスランは、じっと見た。
「あれ?シン、小さいな……」
「起きて第一声が、それですか。小さいって何ですか!」
「ごめん。寝ぼけて混乱した。夢の中で、シン大きかったから。このマンションくらい大きかった」
それは確かに、大きい。
「どんな夢見てたんですか?」
「俺が作ったハロが巨大化して、襲ってくるんだ。逃げてシンの名前を呼んだら、シンが来てくれて、巨大化して、俺を守ってくれた」
「変な夢ですね……」
「うん」
アスランは、自分の手をシンが握っていることに気づいた。
「手、握っててくれたんだな」
「あんたが、うなされてたから……」
「……俺、もう少し寝たいんだけど、いい?」
「どうぞ」
「そのまま、握っててくれる?離さないで……」
「いいですよ」
シンが微笑むと、アスランは安心して、再び眠った。
今度の夢は悪夢ではなく、恋人と手をつないで歩く、幸せな夢だった。
END
サイト名:宵の光明
管理人:まり様
※転写転載厳禁