至宝のシンアス

□恋人の手
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*恋人の手*




 アスランは、大学で専攻している機械工学の論文を書く手を、休めた。機械いじりなら、何時間やっても苦にならないが、論文を書くのは疲れる。

 
「どうぞ」
 シンは、コーヒーを机の上に置いた。
「ありがとう。まだ時間がかかりそうだから、今日は先に寝てくれ」
「わかりました」

「あ、待って、シン」
 アスランは、シンの腕をつかんで、引きとめた。すっと手を移動させて、シンの手を握る。

 痛くない程度に、ぎゅ〜っと、力をこめた。

「アスランさん……?」
 長すぎる握手に、シンは戸惑う。

「充電完了」
 手を離して、アスランは言い、花がほころぶように、ふわりと笑みを浮かべた。
「充電?」
「これでまた頑張れるよ、ありがとう」

 シンの手に触れるだけで、不思議なくらい、疲れが取れる。元気になれる。
 
 シンは、恋人のかわいさに、苦笑した。論文を書く邪魔をしてしまいたくなる。抱き上げて、ベッドに連れて行ってしまいたい。でも、我慢。

 シンは独り、ベッドで眠った。
 
 早朝、シンは目を覚ました。横にはアスランがいた。悪い夢を見ているのか、うなっている。怯えたように寄せられた眉。
「アスランさん」
 起こした方が、いいだろうか。

「……う……助けて、シン……」
 夢の中で、助けを求めている。
 シンは、アスランの体を揺さぶった。アスランは起きない。
 シンは、アスランの手を、ぎゅっと握った。
 自分の手に、悪夢を変える力があればいいと思った。

 アスランの表情が、穏やかなものになっていく。安らかな寝息。

 シンは、ほっとした。手を握ったまま、アスランの眠りを見守った。

 ぴくりと、まぶたが動く。アスランが、目を覚ました。
「おはようございます」
 声をかけたシンを、アスランは、じっと見た。

「あれ?シン、小さいな……」
「起きて第一声が、それですか。小さいって何ですか!」
「ごめん。寝ぼけて混乱した。夢の中で、シン大きかったから。このマンションくらい大きかった」
 それは確かに、大きい。

「どんな夢見てたんですか?」
「俺が作ったハロが巨大化して、襲ってくるんだ。逃げてシンの名前を呼んだら、シンが来てくれて、巨大化して、俺を守ってくれた」
「変な夢ですね……」
「うん」
 アスランは、自分の手をシンが握っていることに気づいた。

「手、握っててくれたんだな」
「あんたが、うなされてたから……」
「……俺、もう少し寝たいんだけど、いい?」
「どうぞ」
「そのまま、握っててくれる?離さないで……」
「いいですよ」

 シンが微笑むと、アスランは安心して、再び眠った。

 今度の夢は悪夢ではなく、恋人と手をつないで歩く、幸せな夢だった。



 END




サイト名:宵の光明
管理人:まり様


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