至宝のシンアス
□つないだ手を
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*つないだ手を*
ドアを開けると、シンがいた。
高くなった背。大人びた表情。
見た瞬間、泣きたくなった。
「どうして、ここに?」
アスランは、浮かんだ涙を隠すために、下を向いた。
「あんたに、会いに来ました」
言いながら、シンは勝手に家にあがった。
「懐かしい。あんたの匂いがする……」
シンは、つぶやいた。恋人だった頃の思い出が、蘇る。ここでたくさん幸せな時間を過ごした。そして、別れた。シンの遠方の大学への進学が、きっかけだった。
いい機会だから別れようと言ったのは、アスラン。離れたら、シンの心も離れてしまうのではないかと不安で、いつか別れを告げられるならと、自分から別れを告げた。
シンは、同意した。
うつむいているアスランの顎を持ち、シンは、自分の方に顔を向けさせた。
アスランの表情を見て、シンは、微笑んだ。
「何で、笑うんだ!?そんな……幸せそうに!」
かっとなって、アスランは怒鳴った。シンと会えて、嬉しくて愛しくて、苦しくて、頭の中がめちゃくちゃだった。
「やっぱり、好きなんだなと、思って。あんたも、俺も……お互いに」
シンはアスランの髪を、指でとかした。
「俺、こっちで就職が決まったんです。今でも俺は、あんたが好きです……アスラン。もう一度、俺の恋人になってくれませんか」
「嫌だ……」
「アスラン」
「別れて、苦しかった。俺から別れを告げたのに、シンに引き止めてほしかったって、勝手なこと考えて。またつきあったら、きっと、もっと好きになる。また別れることになったら、次は、耐えられない……」
「次なんてありません。二度と、別れないから。あんたは俺を信じてなかった。だから一度別れたんです。離れても、会えなくても、俺はあんたが好きだって、証明するために。……でも正直、別れて後悔しました。会いたくて、苦しくて、窒息しそうでした。もう、限界……」
シンはアスランの手を握った。
「俺の恋人に、なってください」
「……離さないで、いてくれるなら」
手のぬくもりを感じながら、唇を重ねた。
「少し、やせましたね」
「そうかな」
指が、細くなっている。シンはアスランの手を、口元に持っていった。からめた指に唇で触れて、ぺろりとなめる。
「あんたに、触れてもいいですか?」
「もう、触れているじゃないか」
指が熱い。激しく脈打っている。
「もっと」
互いを隔てているものがあることが、もどかしい。服を剥ぎ、ベッドへは行かず、床に倒すと、シンは喰らいつくように口づけた。
性急な愛撫で、熱を高めていく。どこをどうすれば快楽へ導くことができるのか、互いに知っている。
「あんたの体……最高」
「恥ずかしいことを言うな」
きつく睨むけれど、声音は、とろけるように甘い。
長い間受け入れていなかった蕾は、かたく閉じていた。シンは舌で濡らし、欲望の蜜をからめた指でほぐした。
「シン、もう、いいから……」
痛くても、いいから。
早く。
シンはアスランの体を貫く。
「あぁ……っ!」
嬌声をあげるアスランの手を、床に縫いつけ、シンは中を犯した。
指に、汗がにじむ。
「んっ……あ……っ」
律動に合わせ、舌をからめた。息苦しいほど、求め合う。
「あんたが上になって」
体をつなげたまま、シンは言った。アスランの腰を抱え上げ、体勢を変える。
「この体勢、苦手だって、知ってるくせに」
アスランは頬を染めた。またがっている自分の、勃った欲望を、シンに見られてしまうから、苦手だ。
「あんたのこと、しっかりと見たいんですよ」
やっと会えた、愛しい人。
きゅっと、両手をつないだ。
アスランは、シンの上で、腰を揺らした。
「んっ、あ……っ……あぁ……っ」
アスランを支えるように、シンは手に力を込める。
「あっ……シン……、好き、だ、よ……」
「アスラン……もう絶対、あんたを離さない……」
アスランは、シンが今まで見た中で一番の、幸せそうな笑みを浮かべた。
つないだ手を、もう、離さないで。
離れないで。
そばにいて。
つないだ手を、もう、離さない。
離れない。
そばにいる。
つないだ手から、想いは伝わり、胸に満ちた。
END
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