至宝のシンアス

□夢あやつり
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*夢あやつり*


 シンは、がばりと起き上がった。じっとりと汗をかいた両手で、顔を覆う。

 夢、か。
  

 夢の舞台は、弓道場。アスランと、二人きりだった。弓を引く横顔に、シンは見とれた。
 的の中心に矢が刺さる。
 アスランは弓を置き、シンの正面に立った。
 見たことのない、表情だった。
 艶めいた笑み。毒をはらんだ妖しさに、惹かれた。

 気がつけば、シンはアスランに口づけていた。しっとりとした唇。
 アスランは、自分から舌をからめた。
 シンは驚きながら、深い口づけに夢中になり、アスランを組み敷いた。着物を剥いでいくと、白い肌が、あらわになる。
 胸の果実を口に含み、下肢に集まった熱を、手のひらで包み、さらに高めていく。

 やんわりとした仕草でアスランはシンを制止した。拒まれたと誤解する隙を与えず、アスランはシンの欲望を取り出して、舌を這わせた。たっぷりと唾液をからめて、くわえこみ、シンを見上げる。

 たまらず、シンはアスランの顔を引き剥がすと、アスランの蕾を、舌と指で性急に愛撫し、まだ、ほぐれきってはいない蕾へと、自身を突き入れた。
 アスランは、痛みにわずかに眉を寄せながら、シンを受け入れた。

「シン……あっ……んっ」
 重なったシンの体を抱き寄せて、アスランは耳元であえぐ。甘い響き。

 横から、その声とよく似た、だが響きの違う声が、ふいにシンの耳に届く。

「シン」

 シンはアスランと体をつなげたまま、顔を上げた。横に立っていたのは、アスランだった。
 アスランが、二人。

 シンが体をつなげている妖艶なアスランとは違う、よく見知っている、潔癖な印象のアスランがいた。

「なにをしてるんだ、シン?」
「アスラン……さん……」
「君は、俺と、そういうことがしたかったのか?」
「俺……は……」
「最低だな。俺は、そういう行為は、嫌いだ」
 胸が痛み、シンは硬直した。

「シン……続けて……ねぇ、もっと……」
 シンの下にいるアスランは、腰を揺らして、ねだる。

 横にいるアスランは、笑った。下にいるアスランが見せたのと、同じ笑み。
「嘘だよ、シン。普段の俺ならこう言うだろうと、君が思っていそうなことを、言っただけ。……してあげたら?そこにいる俺が、嫌いでなければ。……君が知らない俺を、君に見せた。君がどう思うのか、知りたくて……」

 アスランは、シンの顎をつかみ、翡翠の瞳を近づけた。
「抱く気になってくれて、嬉しいよ、シン。でも、妙なものだな。自分が相手でも、客観的に見ていると、少し腹立たしい……だから……交ぜて」
 
 アスランは、唇を重ねた。舌をからめる濡れた音。

 下にいるアスランは、体を起こし、シンの髪を引っ張った。
「俺を、見てよ……」
 アスランから離れた唇は、もう一人のアスランの唇と重なる。
 二人のアスランと、シンは交互に口づけた。律動を再開する。

「シン」
「シン」

 シンを求める、二人の声。体。想いは交錯し、熱情が理性を喪失させる。
 一人と、二人。交わり、快楽に酔った。


 どんな顔をして会えばいいんだ。
 目覚めて冷静になったシンは、苦悩した。
 アスランは、いつも通り、シンを迎えに来た。二人で登校する。

「シン……どうして、目を合わせてくれないんだ?」
「えっ……いや、その……」

 夢を思い出し、赤くなるシンを見て、アスランは、くすりと笑った。
「まぁ、いいけど。今日、部活が終わったら、自主練したいんだ。つきあってくれるか?」
「はい……」
 弓道場で、二人きりになるのか。夢のように。

「楽しみだな……」
 アスランは、つぶやいた。
「え」
「いや、なんでもない……」

 夢をあやつることのできる人間は、いるんだよ。
 胸の内で、アスランはシンに語りかけた。

 夢を現実にしたいと、君は望むだろう。この身はひとつだけれど、きっと、満足させてみせるから。

 しかけた罠に、囚われて。

 まっすぐ前を見ているシンは、横にいるアスランが、夢と同じ表情をしていることに、気づかなかった。


 END




サイト名:宵の光明
管理人:まり様


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