シンアスのお話
□イエス・ノー
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「まさかこんなものを作っていたなんて……」
アスランは溜め息を吐いた。
イエス・ノー枕は既製の枕にフェルトを縫い付けて作られた、シンのお手製だった。
数日前から、シンがこっそり何かを作っているのを知っていたアスランは、何をプレゼントしてくれるのか、とても楽しみにしていた。
答えを知ったアスランは、肩を落とす。
「えー、嬉しくないですか?」
シンは唇を尖らせて首を傾げた。
「これで俺にどうしろというんだ!」
憤りに震え、アスランの肩が戦慄く。
ただでさえ毎日辛いというのに、さらに自分から誘うなんて真似は、それこそ冗談ではない。
アスランは羞恥に顔を背けた。
「だからー、ヤりたいときにイエス側を、うぐっ」
「そんなことあるわけないだろっ」
有無を言わせず、シンの顔面へと枕がヒットする。
イエスノー枕は、ノー側を向いてシンに受け止められた。
「……そうか」
それを見て、アスランが唐突に呟いた。
「ノーを向けておけばいいのか」
数度瞬きをして、きょとんと枕を見つめる。
簡単なことにアスランは気付いた。
何も悩む必要はない。ただシンの思惑を、裏へと返せばいいだけのこと。
「え?」
問い返すシンに、アスランは満面の笑みで枕を奪い返したのだった。
「おはよう、シン。今日もいい天気だな」
隣で眠るシンに、アスランは爽やかな笑顔を向けた。
二人で暮らしはじめてから、見ることのなくなった朝の笑顔。
「……はぁ」
対照的に、シンは朝から暗い顔を俯かせていた。これも二人で暮らしはじめてから、一度としてないシンの朝の顔。
アスランは立ち上がり、大きく伸びをした。
一日がはじまる。
シンは僅かに視線を上げ、プレゼントしたアスランの枕を見た。
枕はノー側を向いていた。
シンはイエス側を、まだ一度も見ていない。