シンアスのお話
□残っているモノ
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平和になって、やっと話し合えた。
今までのこと、お互いのこと、これからのこと。
そしてようやく知ったのだ。
誰よりも自分を分かろうと、分かり合おうとしてくれていたのは、あの人だけだったことを。
自分ですら分かっていなかったことも推し量っては心配し、ただ一人思い悩んでくれていたことを。
――そして。
今まで憎んできた気持ちはすれ違いを正せばひたすら恋慕となり、求める想いのまま何度も会いに行った。
忙しいのはわかっていても止めることなどできず。
また、押しかけるたび構ってくれるその優しさが、さらなる想いを増長させた。
我慢できるはずもなく。
隠していられるはずもなく。
勢い付くまま気持ちを伝え。
友愛などと勘違いされる前にキスをした。
そこで殴られなかったのをいいことに。
会うたび何度もくり返して。
想いが通じるようにと願いながら。
どこかで想いは通じているのだと自覚した。
そうして僅かの時間も惜しんで逢瀬を重ね、自分という存在を恋愛のスタンスで、精一杯アピールし続けたのだ。
そしてとうとう、身体まで許してもらえるようになれた。……なのに。
「結局は身体だけだったっていうか……」
「――……はぁ!?」
思わずまた溜息が零れる。
そのことを思い出しては暗く沈む自分とは対照的に、同僚は口を開けたまま少し赤くなって固まってしまった。
「カ、カラダだけって……それって…! ――…って、あのアスランがってことぉ? そーんなの、ありえないでしょ」
しかし、驚いていたのも束の間。すぐさま疑いの眼差しを向けてくる。
しかも、心底呆れた様な口調でだ。
「……。 ……だよなぁ」
だが、それも当然といえば当然と言えた。
同僚の言うとおり、「あの」アスランなのである。
女にすら、あまりの奥手さに業を煮やして押し倒されるなんてことはあっても、欲求不満解消のためにソレだけを求めて誰かれとコトに及ぼうなんて真似、とてもするとは思えない。
そもそも、欲求すらちゃんとあるのか疑わしい。
「……あ、そうでもないか」
しかし、ふと自分の思考の中でひっかかりを覚える。
触ればちゃんと反応していたではないか。
初めて重なり合ったあのときに。
というかむしろ、かなり感度が良かったのではなかったか?
つい目を閉じて瞼の裏に思い出す。
なめらかな肌。傷はあるけれども、手のひらや唇に心地良く吸い付いた。
肌の向こうにある引き締まった筋肉。そこに隠し切れない強張りがあるのは、嫌悪からではなく慣れない行為への戸惑いからだと思いたい。
両手をクロスして隠される顔。次第に辛くなったのか、しばらくすれば片手はシーツを掴んでいた。
息まで止めていそうなほど、強く閉じられた唇。声を堪えているのは明らかで、感じる声を聞きたくて。無理矢理に手を掴み、強引に離せば荒々しい口付けが返って来た。
揺さぶるたびに、溺れるかのごとく泳ぐ身体。すべてを曝け出したその人は、最後まで一度として拒絶するようなことはなかった。