シンアスのお話

□手に入れたモノ
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 信じられなかった。
 こんな欲求があったなんて。

 そんな経験もないというのに。

 本能というもの、なのだろうか。


 心だけじゃ飽き足らない。
 まぎれもなく、シンを求めていた。



 そんな初めての衝動を持て余す心と、
 未知への不安が肥大して、
 つい、その想いを人に零してしまった。
 今思っても、なぜ言ってしまったのかはわからないが。

 シンが欲しいのならば、壊されることも辞さない覚悟が必要だと言われた。
 抗わず、耐え、受容する。
 その覚悟がなければ、求めるべきではないと。

 そんなものは承知の上だった。
 素直にぶつけられるもの、そのすべてが自身へ向けられる想いなら、すべてを受け止めたい。



 ――だが、あんなことになるなんて……



 思い出した瞬間、まどろみも一瞬にして覚めた。
 慌てて身体を回転させ、うつ伏せになる。
 持って行き場がない視線を、寝台に顔を埋めることでおさめた。
 が、思考は止まらない。

 ……あいつも初めてだろう?
 初めてでなぜあんな……
 そういうものなのか?
 想定外だ。
 次はもう無理に決まっている。
 絶対に我慢なんてできない。
 仕方ないじゃないか。
 あんなに気持ちいいんだから。
 抑えたくても身体が勝手に反応して、気が付けば声が出てしまっているのだから。
 精一杯我慢して、必死で堪えて、そうしたら余計に熱が内に籠もって。
 拷問のように苦痛な快感に翻弄され、それでもできる限り我慢し続けたことはいっそ褒めてもらいたい。

 我慢できなければ嫌われる。
 それだけは耐えられないから、必死で我慢したのだ。

 果て疲れて、ほっとして、終わったあとはそのまま何もかも投げ出して眠ってしまった。
 でも、起きたら自分の身体がきっちりと整えられていて、部屋のなかも行為の痕跡なんて微塵もなかったのには驚いた。
 唯一の証は、あちこちに残る自分の身体に刻み込まれた痕と、隣で眠っているシンだけ。
「あぁ、あとは鈍痛か」
 言って赤面してしまう。
 痛みがなかったわけじゃない。
 それでも、周りから聞きかじっていただけに予想外だ。
 流血沙汰まで考えていたのに、ただ痛いだけで、酷いことにはまったくならなかった。
 正直なところ、こちらはただベッドに転がっていただけ。
 すべてシンのおかげと言える。

「……おかげすぎる」
 そうだ。
 なんであんな念入りに下準備できるんだ。
 痛みの覚悟ばかりしていたというのに。
 てっきり突っ走ってくると思ったのに。
 いっそ、そのほうが痛みに耐えているだけで済んでラクだった気がする。
 あんなしつこく何度も念入りに……しかも、逐一、こちらを窺がってイイと言うまで次に行ってくれな――

「……ッ……」

 なにもかも火照りすぎて、心音がうるさい。
 なにもかもから逃げたくて、寝台の中に潜り込んだ。
 「次は無理だ」
 頭を抱えるようにして、背中を丸めた。
 思い出すだけでこれなのだ。
 
 もう我慢などできない。


 でも、嫌われるなんて到底耐えられない。


 「……どうすれば……」
 身体を丸める。
 悩む思考が堂々巡りで止まらない。

 我慢できない。
 耐えられない。

 といって、どちらか一方なんて選べない。
 どちらも、根源は同じなのだから。


 シンが好きだ。
 だから、こんな――


「アスラン、いるのか?」


 軽いノックとよく知る声。
「……ッ!?」
 サボっているのがバレたのか!?
 勢いよく身体を起こすと、乱れた髪と服を調えながら扉へ駆け寄った。
 慌ててノブを引く。
「なんだ、寝ていたのか」
 そこにいたのは、この国の首長、カガリだった。





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