シンアスのお話

□Alex and Rite
2ページ/3ページ



「だから、ラクスに言われているからだ」
 冗談でテロリストにでも狙われているのかと想像を広げていたが、なんだその冗談の想像を超えるしょうもない理由は。
「ラクスに……"とにかくワタクシの迷惑に繋がることだけはおやめくださいね"と言われて……これを渡されたんだ」
「……なんですか、これ」
 ズボンのポケットから手のひらサイズのガイドブックみたいなものが出てきた。表紙には『平穏な日常生活へのすすめ』と書かれてある。
 なんなんだこれは。
「ここに書かれたことさえ守っていれば、好きにしていいと言われたんだ」
 受け取って表紙をめくってみる。最初に目に飛び込んできたのは[生き抜くことを考えなさい]という一文だった。
……詩? 聖書?
 その下には安易な自爆はやめなさい、自分の身を守るために最大限尽くしなさい、常に警戒なさい、と書き添えてある。
 ……。……えぇ?
「カガリたちみんなで話し合って作ってくれたらしいんだ」
 恐る恐るページをめくってみる。[ハツカネズミはよくない]、[ひとりで動くな]、[利用されるな]。
「……俺はバカだから……だから、もう迷惑はかけたくないしな」
 まだまだ続いている。[思いつめるな]、[なんでも真に受けるな]、[安直に人の言葉を信じるな]。
 さらにひととおり記し終えたあとに付け足されたのか、手書きでもまだ続いている。
 [必要以上に優しくしない]、[必要以上に触らない、触らせない]、[知らない人はもちろんのこと、知ってる人にもひとりでついていかない]。
……延々と続いている上にまだ追加できるように空白ページがある。
「せめてこの言いつけだけは守りたいんだ。 もう、名も力も利用されないで、迷惑をかけないように……」
「……。……へ、へぇ……」
 ぱらぱらとめくり終え……適切な言葉がなにかわからなくて相槌しか打てなかった。顔は鏡で確かめなくても引きつってることだろう。
「……よし」
「え、あ、おい。」
――とりあえず、見なかったことにしよう。
 そそくさと元にあった場所へ押し込んで気にしないように勤める。ポケットに押し込んだものだから服が伸びて痛かったのかしかめっ面を寄越されたが、とりあえず納得してもらえたと判断したようで真面目に顔を向けてくる。
「だから、シンも協力してくれ」


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ